中小企業診断士の国際化支援

                                  城西支部国際部

東  新

 2009年5月に城西支部(当時は城西支会)国際部が誕生して今年で11年になります。このコラム欄「Global Place」は、同年8月に第1回目の「国際化からグローバル化へ」を掲載して以来、駐在記や旅行記、食べ物、国際情勢、そして中小企業の海外進出戦略まで、国際部員が海外での経験や関心を持ったことを様々な視点から情報提供の形で掲載してきました。今では毎回内容の濃いものが投稿されており、整理すれば立派な国際化支援ブックになるのではないでしょうか。

短いので第1回目の記事をご紹介します。

国際化からグローバル化へ

 国際ビジネスは時代と共に変化をしてきている。20年前までは「国際化」を合い言葉に貿易の自由化、海外への進出を推し進めてきたが、だんだん「グローバル化」ということばに置き換わってきている。つまり、ビジネスにおいても相手国との政策・文化・イデオロギーなどの障壁が徐々に低くなって、ヒト、モノ、カネ、情報の行き来が自由になりかつ早くなってきており、更に、ビジネスの対象が地球規模になり世界標準を意識しなければならなくなって来ているからだ。

 このグローバル化は、直接海外ビジネスに関係しない国内中小企業への影響も大きくなってきている。具体的には、品質に始まって、環境、会計、セキュリティ、雇用など、中小企業もそれ等への対応が迫られ、特に日本の産業を支えているものづくり分野では、最近RoHS指令やREACH規則など、いずれも欧州発の規格であるが、親会社や取引先から指導をうけている中小企業は多い筈である。

 将来、日本の中小企業がどれだけグローバル化に対応出来るかによって日本の経済力が決まってくると言っても過言ではなく、我々診断士にとってもこの分野での支援や助言ができるスキル向上が求められてきている。

(H21年8月 国際部 S.H.)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから11年、リーマンショックの傷が癒えてEPA/FTAの締結が進み、インバウンドの増加があり、“グローバル化”と言う言葉をあまり意識しなくなってきました。一方で米国トランプ大統領の出現によってナショナリズムが強くなり、グローバル化と逆行するような動きも見られますが、それでもICTの発達により、格段に国境の壁を越えたコミュニケーションはとりやすくなってきていると言えます。このような変化の中で国際ビジネスの形も多様化しており、私たちもそれに合わせた支援をする必要があります。

 

 さて、私は海外駐在員や貿易実務の経験があることから、躊躇することなく国際化支援を診断士活動の専門分野の一つとしました。あくまでも国内中小企業の国際化(海外進出)支援を対象にしてきましたが、そこで課題として目についたのは「リスク管理」と「人材の確保・育成」です。大企業に比べて経営資源に劣る中小企業にとって、海外進出はコストのかかる負担の重い事業ですが、更に制度、商習慣、文化の異なる地での事業は国内と異なるリスクが多々あります。

 グローバル化が進んでより簡単に海外にアクセスできるが故に、リスク回避を念頭に置いて海外ビジネスに取組む必要があると思います。そこで、今回は基本に返って、中小企業の海外進出のポイントを3つ(プロセス、リスク管理、グローバル人材)ご紹介します。

 

  1. 海外進出決定までのプロセス:

 海外進出を検討する場合、第一に、なぜ海外進出するのかその目的を明確にして、競合に打ち勝つ製品・サービスを持ち且つ現地のニーズに合うものを提供できるか検証すること。第二に、海外進出を成功させる為に、事前に課題を抽出して対策を講じること。第三に、現地調査を入念に行ない無理のない進出形態を選ぶことが必要となります。そしてこれらの準備は、国内で新規事業を興すのとは異なる経営資源が必要となることを念頭に置かなければなりません。

海外進出決定までのプロセスを纏めると以下の様になります。

海外進出決定までのプロセス

①プロジェクトチームの編成(トップをリーダーにすること)

②進出目的の明確化(輸出市場の確保、労働力の確保、新市場開拓、等)

③進出先・地域の選定(目的に最適な場所)

④事前調査の徹底(投資環境、事業費、等)

⑤経営形態の決定(業務委託、独資、合弁、集団化、企業買収、等)

⑥F/S フィジビリティ・スタディ(進出の妥当性と経済性の検証)

※F/Sの結果が思わしくなければ④に戻るか「中止」の判断

⑦進出の決定

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このような事前の準備を万全に行なうことは、海外進出リスクを予防する上で重要であることは言うまでもありません。

 

  1. 海外事業展開のリスク管理:

 海外事業展開のリスクは、大きく“カントリー・リスク”と“ビジネス・リスク”に分けられます。前者は進出企業にとって対応が難しく、後者は進出企業にとってある程度は対応が可能と言えます。それぞれの要因を整理すると以下の様になります。

海外事業展開のリスク要因

【カントリー・リスク(対応困難なリスク)】

 政治・諸制度、経済変動、自然環境、文化・宗教、戦争・紛争

【ビジネス・リスク(ある程度対応可能なリスク)】

 経 営:人材、人脈、管理、市場、競合、情報、戦略

 商 品:品質、技術、供給、開発、知財

 財 務:売上、資金、決済、為替

 

 

これらのリスク要因は、進出先、進出形態、事業分野、業務の種類、などによって異なり、数限りなく存在し多様ですが、経営資源の限られた中小企業にとってあらゆるリスクに備えることは大変難しいので、可能性のあるリスクを想定して対策を立てて防止することが有効です。これらのリスク発生の原因は次のようなことが考えられます。

  • 調査不足による失敗
  • 現地での経営の拙さ
  • 人材不足による不十分な対応
  • 政策・法制度や規制等の情報の不足、、、その他

これらを防ぐことでかなりのリスクは回避できるのではないでしょうか。

 

  1. グローバル人材の確保・育成:

 海外進出において“グローバル人材”の確保・育成は、その事業の成否を分ける最重要課題と言って過言ではありません。では、グローバル人材とは何か、中小企業においてどのようにして確保・育成すれば良いのでしょうか。海外事業を担当するには、“ビジネス・スキル”の他に現地のことを正しく理解して適切な対応をする能力、即ち“異文化コミュニケーション能力”が必要と言えます。基本的に次の3つに整理することができます。

  • 客観的な事実を把握して、自分の価値観だけで理解しないこと
  • 相手の文化を尊敬すること
  • 自分の考えを発信する力を持つこと

 それらを支える具体的能力としては、先ずは「語学力」が挙げられます。輸出入を中心とした初期的な海外進出段階では最も重要と言えます。そして海外に現地法人などの拠点を持って駐在員を派遣する様になると、「業務において」、「生活において」、「本社との間で」、等のコミュニケーション能力を持つことが大事になります。このような人材を社内で育成することは難しいため、即戦力となる人材を採用して対処する企業は少なくありません。具体的には、中途採用や第二新卒、女性、外国人留学生、OB人材など、能力や経験がある人材を採用して対応します。しかしながら、採用後の育成や配置・評価については、社内的に特別扱いをしていると言った不満や不公平が生じることがありますので、一定のガイドライン等を作成して公表しておくことが望まれます。OB人材については、現役社員に比べて年齢的なハンディがありますので海外への派遣や赴任は短期間にして、その間に現役社員を育てるといったように、ある程度補完的・限定的な起用を考えるのが妥当と言えるかも知れません。会社の将来を考えると自社社員をグローバル人材として育成するのが最善でありますが、最も効果的な育成方法は現地で経験させること、これに尽きます。

 

 以上、海外進出のポイントを3つ簡単にご説明しました。今は新型コロナ感染拡大で人の往き来が制限されて国際ビジネスに大きな影響を与えていますので、より入念な準備が必要と思います。いずれコロナ感染症が治って経済活動が活発になる時が来るでしょうが、国際ビジネスの形態は大きく変わっているかも知れません。米中関係の変化、EPA/FTAの枠組みの変化、ESG投資の高まりなど、ビジネス環境への影響を考慮に入れつつも前述した3つのポイントは、業種や進出先等が異なっていても共通するものであることは変わらないと思います。

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