お寺の経営改善と地域支援

尾形 博

1. はじめに
 私は、終活ビジネス研究会に所属し葬儀社コンサルを中心とした活動を行っています。その中で、周辺業界として、「お寺」について調査を始めてみました。お寺は、かつては地域コミュニケーションの要であることが多かったのですが、現在では人の出入りも少なくなり、日本人の宗教観の変化もありその存在感は低下していると言わざるを得ません。存在感の低下とともに、全体的にお寺の経営も苦しくなってきています。そこで、研究会内に「お寺分科会」をつくり、お寺の経営支援ができないか模索することになりました。お寺は宗教法人であり、法的には中小企業診断士の支援対象にはなりません。そこで、お寺と関係の深い葬儀社や地域企業を結びつけ、お寺の経営改善とともに地域支援を始めることにしました。


2. 現在の状況
 現在、テストケースとして神奈川県内のお寺の支援を開始しています。具体的には、①お寺で実施しているヨガ教室、写経会、プログラミング教室等のイベントのブランド化、②寺院葬の実施、③終活イベントの定期的開催、について検討しています。
 お寺は、典型的な家族経営であり、恒常的な人材不足の状態にあることが多いようです。日常的な宗教活動に忙しく、前述のような新規事業を始めたくとも余力がない、ということが現実です。①~③の実施についても、住職は宗教についてのプロであっても、通常業務以外の経営についての経験は乏しく新規事業を始めるだけの余裕がありません。そこで、中小企業診断士チームの出番となりました。

3. 具体的な支援の状況
 現在の支援の状況は次のとおりです。
① 地域イベントのブランド化
 現在支援しているお寺は、地域住民を対象にヨガ教室等数種類のイベントを実施しています。イベントの運営は地域在住の講師が行い、お寺は場所を提供する立場です。これまでは、特に統一したブランドはもたず開催していましたが、お寺からブランド名を定め、地域でのお寺の知名度向上を図りたいとの希望がありました。
 ブランド化については、まずブランド名を決めることから始めました。チーム内で20個ほどの候補案を提出し、その中からお寺に選んでもらい、最終的に「〇〇〇でら学び舎」という名称に決まりました。すでに、お寺のHPは、この名称を使い案内を始めています。今後は、チラシ・案内等のデザインの統一化等もすすめていく予定です。
② 寺院葬の実施
 最近の葬儀は、葬儀社の保有する葬祭ホールで行われることが当たり前のようになっています。葬式仏教といわれるようになって久しいですが、お寺には、立派な本堂があり、きれいな客殿等も整備されていることは珍しくありません。しかし、ほとんどの葬儀が葬祭ホールで実施されるため、お寺の設備が使用されることはほとんどありません。我々は、お寺の設備を有効活用し、いつもお参りに行っているお寺で荘厳な雰囲気のなかで葬儀を行う「寺院葬」を提案しています。「寺院葬」は、お寺の施設を使用することから、お布施の増額も期待できお寺の収入増加効果も期待できます。しかし、「寺院葬」は、お寺単体で実施できないので葬儀社の協力が必要になります。そこは、葬儀社コンサルを実施している我が研究会の得意分野でもあり、協力できる葬儀社の紹介、葬儀社とお寺の分業の調整、「寺院葬」プロモーション等を実施する予定です。実際に、プロモーション用のチラシ作成、葬儀社の紹介は住んでおり、今、実施に向け調整をしているところです。
③ 終活イベントの定期開催
 「寺院葬」を実施するといっても、簡単に檀家が了解してくれるわけではありません。檀家への「寺院葬」の理解を進めるためには、終活イベントを通して理解を深め「寺院葬」実施に持ちこむ必要があります。イベントについても、お寺にノウハウがない場合は、葬儀社の協力のもとに行うことになります。今は、コロナの影響ですぐに実施できる状況ではありませんが、アフターコロナを見据え計画を進める予定です。

4. 診断士の役割について
 お寺の経営は、有名な寺院はそれなりの経営体制が整っていますが、地域にある一般的なお寺は、人材・資金等の経営資源が潤沢にあるわけではありません。かつて「坊主丸儲け」といわれたこともありますが、現在では全く状況は変わっておりお寺の収入は檀家の減少傾向とともに減りつつあります。お寺の存続のためにも収入減少を止める必要があり、そのためには、経営改善を進める必要があります。本稿で述べた、「寺院葬」「終活イベント」等は、葬儀社が協力すれば実施は可能です。しかし、お寺が経営改善し地域活性化の役割を果たすには、診断士がお寺と企業の間に中立的な立場で協力することにより、葬儀社や地域の企業との調整を行い、WIN・WINの関係を作る必要があると考えています。お寺、地域企業、それぞれに有益な提案をすることが診断士の役割です。

5. 最後に
 「お寺」という診断士にはなじみのない業界ですが、地域企業との関わりまで含めて考えると、十分活動の余地はあることがみえてきます。今後も支援するお寺を増やし、ノウハウの蓄積に努めていきます。ただ、お寺は、人見知り的な面もあり外部の人間に相談することは消極的です。もし、支援が必要なお寺がありましたらぜひご紹介をお願いします。