#15 株式会社東京繁田園茶舗 代表取締役 繁田穣さん
株式会社東京繁田園茶舗は、創業75年の歴史を持つ日本茶専門店です。明治維新直後の1875年に日本初の茶の直輸出会社として設立された「狭山製茶会社」をルーツに、狭山本家「繁田園」の東京支店として1947年に設立されました。
大手百貨店の社員だった繁田穰代表取締役は、2021年7月に、両親が経営するこの歴史ある日本茶専門店を事業承継されました。
メインの商材である日本茶に目を向けると、日本文化の中で独自の文化を形成しながらも、近年、その消費量は減少傾向にあります。
繁田代表に、事業を承継するにあたり、この状況をどう考え、日本茶文化の担い手の一人として、会社を継続していくため、どのように取り組まれているのか、お話を伺いました。
日本茶文化を次世代に継承する
-メインの商材である日本茶は、日本文化の中に深く根付き、欠かすことのできないものですが、一方で消費量は少しずつ減少しているようです。経営に携わられるにあたり日本茶についてどのように考えていらっしゃいましたか。
繁田 この10年で当社でも売上は半減しています。東京の日本茶専門店の店舗数は、ピーク時と比較して10分の1くらいに減少している状況です。社会の変化に伴い銀行の窓口が少しずつ閉鎖していくのと同じように、街のお茶屋さんも減っていくだろうと考えています。
一方で、日本茶は、日本文化の中で一つの文化を形成しています。お店に行けばお茶が出てきますし、会話でもお茶は欠かせない。例えば私たち日本人は、ハレの日に晴れ着や振袖を、夏には浴衣を着ます。街から着物屋さんは減りましたが、決してなくならないのと同じように、街のお茶屋さんも完全になくなることはないはずだ、と考えています。
日本茶文化の担い手の一人として、これを次世代に継承するために必要なものは何か。他店にはない特徴のある会社が生き残っていくはずだと考えています。
拡大・成長というよりは、最後までお客さまに必要とされる日本茶専門店の店舗機能から逆算しているイメージです。
-御社がイメージするお客さまに必要とされる特徴ある会社とはどのようなものでしょうか。
繁田 今もその流れはありますが、今後、商品は、より産地に近づくと考えています。「産直」という考え方です。
ただ、お客さま側から見ると、生産者から直接買えば解決するのかというと、選択肢などの面から実はそうでもありません。
一方、生産者側から考えると、生産物の出来の如何にかかわらず、それを販売するしかないという課題があります。
当社のような日本茶専門店ができること、それは、産地と直接つながり、本物の「産直」を生産者の想いとともにお届けすること、産地での生産物の出来不出来に左右されないよう、仕入れた原料を加工し、合組(ブレンド)することにより、高品質でリーズナブルな日本茶を作り続けること、そして、お客さまに寄り添い、好みの日本茶を一緒にお探しし、幾つかの最良の選択肢を提案することだと考えています。
そうすることで、もともと日本茶に親しんでいただいている方はもちろん、若い方や海外の方にも、日本茶に親しんでいただきたいと思っています。
急須でお茶を淹れるのは面倒な面もありますが、そうやってお茶を美味しく楽しんでいただくという文化を継承していけたらと考えています。
生み出した余剰と新しいチャレンジ
-「日本茶文化を次世代に継承する」というテーマの実現に向けて、取り組んでいることについて教えてください。
繁田 事業承継したタイミングでは、働いているみなさんに対して、販売に関わることは一切変えないこと、また、日本茶専門店は、ピーク時と比較して10分の1に減少したものの、逆に言えば、当社は10店のうち1店に残ったとも言えること、を伝えました。変化は、リスクも伴いますので、慎重に行っていく必要があると考えています。
一方で、店舗運営の標準化、バックオフィスやオペレーションの業務改善については積極的に変更しています。まず優先するのは、無駄を排除して余剰を生み出すという作業です。
そうやって生み出した余剰を使って新しいことへチャレンジしようとしています。新しいチャレンジがお客さまに刺さるかどうかは、ある意味、確率論とも言えますが、あくまでもプラスαの部分と捉えています。
-新しいチャレンジとは、どんなものですか。
繁田 例えば、オンラインストアとSNS(note※)の連動です。買っていただいたお客さまやギフトとして受け取られたお客さまに対して、商品の背景や美味しいお茶の淹れ方をSNSで情報発信しています。
百貨店勤務の中で仕入れの経験が長く、当時から作り手などの商品情報を販売員さんや仕事に携わっている方へ共有する仕事の進め方をしていたので、SNSでの情報発信は、同じく販売スタッフのみなさんに向けた情報発信でもあります。そのため、おもしろく書こうとかではなく、正しい情報を、思いを込めて伝え、お客さまはもちろんですが、販売スタッフのみなさんにも商品のファンになっていただきたいと考えています。
-オンラインストアやSNSでの情報発信などは、ご経験がおありだったのでしょうか。
繁田 いえ、全くです(笑)。一方で、新しく始めることについては、先ずは自分でやってみて、兆しが見えたら、そこにリソースを追加して軌道に乗せていくのがよいと考えています。そのため、オンラインストアについては、従姉妹に社外パートナーとして手伝ってもらい、原則二人で対応しています。そうやって、自分たちが本当によいと信じることをやっていると、年代を超えて手伝ってくれる人もいて、例えば、パッケージのデザインは従姉妹の同級生が手伝ってくれています。
-御社のオンラインストアは、値段だけでなく、量や特徴からも商品を選べるなど、お客さまに寄り添っている印象を受けていたので、そういう形で進められているとは驚きました。
また、先ほどお店でテーブル茶道体験という案内を見かけましたが、こちらも新しい取組みの一つでしょうか。
繁田 テーブル茶道は、テーブル席でお点前をしてお茶をいただくというカジュアルな茶道です。
普段はドイツに住んでいる妹が日本に帰国していて、当社で体験教室を行っています。今後、彼女がドイツに戻った後、日本文化の体験教室を行うことを計画していて、そこに日本茶などをサプライしていくような形を考えています。
そのような体験を通じて、海外の方が日本文化や日本茶に親しんで貰えれば、日本茶文化の継承にもつながっていくと考えています。
-ルーツである「狭山製茶会社」へも通ずるところがありますね。
繁田 取組みを進めようとする中で、当社のルーツにも辿り着き、納得するところもありました。
無駄を排除して生み出した余剰について、純粋にプラスだからといってなんにでもチャレンジしようということではなく、「日本茶文化を次世代に継承する」というテーマを軸とすることで、やるべきこと、やらなくていいことの選別ができるようになりますし、その中で絶えず考えながら動いていければチャンスが出てくると考えています。
目指す場所へ辿り着くために
-御社の今後の展望についてお聞かせください。
繁田 受け継いだばかりの事業ですが、次の世代への事業承継についても考えています。
事業の拡大・成長だけを追求しなくてもよいのが中小企業という企業体の良さです。自分が実現したいと考えている「日本茶文化を次世代に継承する」というテーマを目印に、会社を継続するために、一つひとつ間違わない目標を立てて、足りないものを埋めていくということを継続したいと考えています。
-取組みが進んでいくと、日本茶を楽しむという文化が、若い方や海外の方にも浸透して、より身近なものにもなっていきそうですね。本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
※取材内容は2023年1月現在
【企業情報】 株式会社東京繁田園茶舗
〒166-0004 東京都杉並区阿佐谷南1-14-16
提供サービス : 日本茶、茶器、コーヒー豆、のりの販売
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(余録)今回、お話を伺う中で、繁田代表は、自ら行動することを厭わない方だと感じました。事業承継の時期が、新型コロナウイルス感染症が蔓延した時期と重なる中、自分ができることは何かと常にアンテナを高く保ち、取り組まれています。
そして何より、創業75年の歴史を持つにもかかわらず、大胆に、一方で慎重に変化を選ばれます。
継続と変化をしっかりと見極め、お客さまに必要とされる会社の姿から逆算して次世代を見据える繁田代表の姿勢は、事業承継の一つの形だと感じました。(永山 陽一)