~世界を見る・観る・視る~

城西支部国際部 野村純一

 私が最近に読んで印象深くなるほどと感じた本に、スウェーデンの医師・教授・教育者であるハンス・ロスリング氏の著書《FACTFULNESS》があります。
その中で展開されている「国際比較」「時代比較」「データ参照」など様々な視点による<ものごとの理解>が重要と考えますので、国際に携わる皆様にご紹介します。
なお、本稿の主な目的は書評でも内容紹介でもなく、私なりの解説・感想・意見をとりまとめたものであることにご注意ください。

≪副題:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣≫

まず、この副題からして本書の特徴をよく表しています。
思い込み:
確かに私たちは思考・行動における思い込みが強いと感じます。
データ:
事実をデータに基づき理解・認識することの重要性は測り知れません。
世界を正しく見る:
一つの国・地域を超えて/長い年月にわたり世界を知れば正しく見れます。

≪目次:第1章分断本能~第10章焦り本能+第11章≫

副題の「10の思い込み」が列挙されていますが、いずれも「○○本能」という章題であり、思い込みが人間の本能に起因するものと著者は考えています。
最後の第11章は「ファクトフルネスを実践しよう」いう呼び掛けです。

≪本書のベースとなっている考え方:その1≫

「世界には様々な国・地域があり、各々の社会的状況は異なっている」
社会的状況は様々な側面があり、生活の質・インフラの整備状況・教育の普及・医療サービスの提供・享受、などですが、所得レベルに応じて国・地域を区分すると共通(というか同様)の特徴を有していると理解できます。

「所得レベル1」:   ~2ドル: 10億人
 ⇒極度の貧困、食糧欠乏、、水・燃料欠乏、移動は徒歩、病気・死亡率高い
「所得レベル2」:2ドル~8ドル: 30億人
 ⇒少しマシな生活、食糧調達(不足気味)、燃料・日用品入手可能
「所得レベル3」:8ドル~32ドル: 20億人
 ⇒かなりマシな生活、安定収入(就労)インフラ整備、教育・医療普及
「所得レベル4」:32ドル~:10億人
 ⇒かなり裕福な生活、レベル高いサービス(教育・医療・交通等)享受
(所得:一人当たり一日当たりについて購買力平価を用いて算出したもの)
レベル1にはアフリカの一部が、レベル2/レベル3にはアフリカ・アジア・中南米が多く、レベル4には欧州・北米・日本などが含まれます。

※要注意点1:データは平均だけでなく分散も見る⇒格差等の状況も認識
※要注意点2:統計データはなるべく正確・最新のものを使用(国連等)

≪本書のベースとなっている考え方:その2≫

「世界は年々(時代とともに)変化しており、概ね良い方向に進んでいる」
世界の状況を理解する(見る・観る・視る)には、直近の短期間ではなく中期的または長期間にわたる状況の変化を捉えることが大切である」

社会的状況の様々な側面を把握するのに、数十年または数百年のスパンで統計データを視える化すると、世界は(ゆっくりとであっても)次第に変化をして、それも概ね良い方向に進んでいます。

例1:「極度の貧困率(レベル1に属する人の割合)」は劇的に改善している
     1800年:85% ⇒ 2017年:9%
例2」「世界の平均寿命」は劇的に改善している
     1800年:31歳 ⇒ 2017年:72歳
例3:「一人当たり一日当たり所得と平均寿命を国毎にプロットしたマップ」も
   年々《良い方向に》変化(プロット位置が良い方向へ移動)している
      スウェーデン  スウェーデン  スウェーデン  スウェーデン
      1891年  ⇒  1921年  ⇒  1948年  ⇒  1975年
       ↕        ↕        ↕        ↕
       レソト     ザンビア     エジプト    マレーシア
      2017年      2017年     2017年     2017年
例4:減り続けている16の悪いこと
   「飢餓」「乳幼児死亡率」「児童労働」「大気汚染」「合法的奴隷制度」等
例5:増え続けている16の良いこと
   「自然保護」「農作物収穫」「女性参政権」「予防接種」「識字率」等

≪本書のベースとなっている考え方:その3≫

「様々な事項に誤解が生じるのは《人間誰しもが持つ本能》が原因である」
著者が挙げる《10の本能》によって、人間は理解・認識において思い込むことになるとしています。
〔以下は本稿筆者の見解ですが〕
それに加えて、毎日のように受領する最新情報によって思い込みは加速されます。そもそも情報の提供者(マスメディアや企業のトップリーダーや学識経験者等)が思い込みをしているので、誤った認識の情報が積み重なっていくのです。

例1:著者が作成した13問からなる3択のクイズへの正解率は極めて低い
   2017年に行った14ヵ国12,000人に対する調査結果は次のとおり
    全問正解者<0%>
    平均正解数<2問/13問=15%>
    全問不正解者割合<15%>
   ☆3択なので、ランダムに選んでも平均正解数は<33%=4.3問>のはず
   ☆エリート(高学歴で国際問題に興味のある人たち(※)でも同じ結果
   ※医学生、大学教授、科学者、企業役員、ジャーナリスト、政治家、等
例2:誰しもがドラマチックすぎる世界の見方に基づく先入観を持っている
   「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒に
    なっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏に
    なり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽
    きてしまう。」というのは先入観に過ぎず、データが示す事実は大きく
   異なっています。(詳しくは本書を読むか、一次資料をご覧ください)

≪本書のベースとなっている考え方:その4≫

「記載している内容を説明するのに≪客観的かつ信頼の置ける資料・データ≫
を使うとともに≪著者自身の経験談を引用する≫ことで説得力を増す」
例1:著者自身が世界各地で経験した話(特にアフリカでの医療業務等)
例2:事実を捉えるため送り込んだ写真家が撮影した数々の画像(特に生活)
≪本書のベースとなっている考え方:その5≫

「事実を把握する・情報を収集する・事の内容や解釈を伝える」人々の行動原理を捉えて、何故にそのように思考・行動するのかを解説しています。。
例1:ジャーナリスト⇒「良いニュース」より「悪いニュース」に価値がある
例2:専門家⇒自身の専門領域ではいいが、それ以外は苦手である

【本書を読んで、私自身が感じた・考えたことと変化したこと】

最後になりますが、書き添えておきます。

〇最初に読んでトライしたクイズ13問の正解率は《平均レベル》でした。
〇読後に(思い込みに注意しながら)再トライしたときの正解率はマシでした。
◎メディアからの情報を収集するときや人の話を聞くときには、《思い込み》に
 注意するようになりました。
◎著者が願ったように、自分と関わりがある人に読んで頂くと良いと思います。

以上、少しでも読者のみなさんの役に立てたなら幸いです。