新型コロナウィルスによる家計調査の影響
杉並中小企業診断士会 鈴木 香織
新型コロナウィルス感染症は、人々の行動を変えて消費にも大きな影響を及ぼしました。多くの事業者が窮状に陥り、観光や外食だけではなく、衣類やクリーニングなど日常的なものについても、打撃を与えているという話を相談室で聞いています。
不便を強いられる状況を考えると、一方で新たな需要も生まれている可能性も考えられます。そこで、月次で公表されている総務省の家計調査(二人以上の世帯)を基に数値的な動向を確認してみることにしました。
1.大分類ごとの消費動向
以下の表は家計調査の大分類ごとで、前年同月比の比較表です。10%以上増加している月は緑、-10%以上減少している月を赤にしました。特に4月の「被服及び履物」が50%以上減少しています。1年間で全てマイナスとなっていたのは「不要不急」と呼ばれる「教養娯楽」でした。一方、家具・家事用品は、「ステイホーム」の影響か、全体的に消費が増えていることがわかります。
2.品目ごとの消費動向
同じ分類であっても、「品目」によってそれぞれ動向が異なるものがあります。
①食料
「外食」を除くと「不要不急」ではないため、比較的安定しています。「米」の10月が-11.55%減少しました。そのまま食べられる「パン類」よりも、少しだけ手間をかける「麺類」の消費が増えています。
②家具・家事用品
全体的に2月、6~8月、10~12月が増加、9月が減少となっていますが、人手が必要な「家事サービス」は9~11月が減少しています。
③被服及び履物
外出する人が減ったため全体的には4月の50%以上減少が大きく、10月に少しだけ前年比を上回っていますが、3~6月の間は「生地・毛糸」が増加しています(4月で95%増)。家で裁縫や手芸をする人が増えたのでしょうか。
④保険医療
「健康保持用摂取品」「保健医療用品・器具」が4~8月に増加の一方、「保健医療サービス」の同時期では減少傾向です。これまで人手によるサービスが利用しにくくなった代替品として、「健康保持用摂取品」「保健医療用品・器具」の需要が増えた可能性が考えられます。
⑤交通・通信
公共交通機関は全体的に減少していますが(特に3~9月は50%以上減少)、「自動車等購入」は9月、「自転車等購入」は8月でそれぞれ約70%増加しています。
⑥教育・教養娯楽
「教育」は9月まで、「教養娯楽」は全体的に減少傾向にありますが、「教科書・学習参考教材」は学校が再開した6月には約150%増加しました。「教養娯楽用耐久財」は8月まで増加傾向にあり、特に7月は約70%増加しています。十分なサービスが受けられなくなったため、モノで解決しようとしていると思われます。
「ステイホーム」の影響で、移動時間が減った影響か、パンよりも麺類、洋服よりも生地と、手間がかかるものを購入する動向があることが明らかになりました。
コロナ前までは、「モノからコトへ」と言われ、小規模な小売業では、店主が顧客と密なコミュニケーションを取り商品の使い方を提案するといったことで量販店と差別化を図っていく店舗が多くみられていました。しかし、対面サービスができなくなったことにより、消費者は、自分で情報を調べて「モノ」で代替しようという動きに移ってきていると見られます。消費スタイルの変化にどのように対応してくべきか、考えていく必要があります。