労働生産性の国際比較から見た日本の課題とは
かつて世界第2位の経済大国と言われた日本ですが、近年はその輝きを失いつつあります。
このことについては様々な側面からの研究がなされておりますが、ここでは生産性の国際比較を通じて日本が直面する課題を考えてみます。
1. 労働生産性の国際比較
日本生産性本部の「労働生産性の国際比較 2018」によると、《日本の時間当たり労働生産性は47.5ドルで、OECD加盟36ヶ国中20位》です。これは1位のアイルランド97.5ドルの49%、6位の米国72.0ドルの66%となります。
OECDの加盟国中の順位ではかなり小規模な国が上位を占めているため単純な比較はできませんが、欧米の主要国との乖離が大きいことは事実です。
また主要先進国の中での順位の推移を見ると、1970年~2017年という長期に亘って最下位が続いており、OECDの20位が恒常的な位置となっていることが注目点です。
つまりバブル期後の「失われた20年」だけでなく、第二次大戦後の驚異的な高度成長期の終わり頃から最近年(2017年)に至るまで、主要先進国との比較で相対的劣位が続いていたことになります。そして主要先進国(G7)の中では、上位3カ国(米国、ドイツ、フランス)と下位4カ国(イタリア、カナダ、英国、日本)に分かれていて、日本は最下位となっています。
(出典:日本生産性本部)
※労働生産性は「名目GDPを使う/実質GDPを使う」「一人当たりで表す/一時間当たりで表す」「自国通貨ベースで表す/ドルベースで表す/購買力平価ベースで表す」等で見え方が異なりますが、ここでは「名目GDP/一時間当たり/購買力平価ベース」での表示となっています。
※一時間当たりで表すことは、人口に占める就業者数の割合や就業者の労働時間の多寡に左右されない指標となるので、一人当たりで表すより比較が的確と言えます。
2. 労働生産性の意味と意義
一般に知られているように、労働生産性は次のように算出されます。
労働生産性=付加価値の総額(GDP)/人口(または総労働時間)(☆)
☆分母が人口なら「一人当たり」、総労働時間なら「一時間当たり」
これを別の書き方にすると、次のような関係と理解されます。
付加価値の総額(GDP)=人口(または総労働時間)×労働生産性
つまり国民経済における指標であるGDPを増加させるには「人口(または総労働時間)を増やす」か「労働生産性(単位当たりの付加価値)を向上させる」かが必要です。
多くの途上国のように人口が増加し続けている(=人口ボーナスが享受できる)国々では労働生産性の向上が少なくても経済発展ができますが、日本のように人口が減少しつつある国では労働生産性の向上こそが国民経済にとって必須となるのです。
※単位当たり付加価値が増加させられないと、賃金の維持・上昇が難しく、社会保障費を賄うことも困難になるので、国民の生活水準を維持・向上できなくなります。
3. 日本の人口推移と世界の人口動向
よく知られているように、日本は既に総人口が減少し始めています。超長期の人口推移と将来予測では、国民が一般に理解しているよりも大幅な減少だと推定されています。
下記の図に示されるように《2050年にはピーク時の75%未満:約9,500万人》であり《2100年にはピーク時の40%未満:約4,800万人》と見込まれています。
もちろん、推計の方法等によっては、より緩やかな減少を推定する場合もあります。
例えば、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると《2050年の総人口は1億200万人、ピーク時の80%》とのことです。また後に示す国連の推計では、《2050年にはピーク時の88%:約1億1,500万人》というさらに緩やかな減少を予測しています。
しかしながら、(どの推計を使うにしても)日本では総人口が大幅に減少することは避けられないと考えられます。
※直近の人口動態(2018年10月1日)は、総人口126,443,180人、前年比較では、自然増減(-263,030人)、社会増減(+161,456人)であり、出生数の着実な減少及び死亡数の漸増が明確化しています。
(出典:「国土の長期展望」中間とりまとめ)
総人口の減少以上に大問題となるのが、生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加です。下記の図に示されるように、2050年には生産年齢人口が約50%、高齢人口が約40%、若年人口は10%にも満たないという状況です。
(出典:「国土の長期展望」中間とりまとめ)
一方、世界の人口は全体に増加を続けています(下図)が、主に途上国における増加が著しく、米国を除く主要先進国で日本に続き人口減少に転じると推定されています。
国別では、ドイツとイタリアは2010年頃から、英国とフランスは各々2030年頃からと2040年頃から減少が始まります。
(出典:第一生命経済研レポート、出所:United Nations)
4. 日本が直面する課題
総人口について言えば「少子化に歯止めをかけて総人口を維持または増加にする」ことが必要ですが、これまでのところ有効な取り組みがなされているとは言えません。
これは合計特殊出生率が1.43で低迷していることと2017年の出生数が過去最低の94万人だったことにも表れています。
高齢化については《生産年齢人口が約50%、高齢人口が約40%、若年人口は10%にも満たない》ということは、国民の負担で考えると、《2005年には2人で1人を支えていた》状態から、《2050年には1人が1人を支えなければならいない》状況になるということです。
これを労働生産性の向上(付加価値の増加)で補うには「現在の2倍の生産性にする」ことが必要になることを意味します。
5. 解決の処方箋
これらの課題を解決する処方箋としては専門家が様々な提言をしていますが、社会的事象の複雑さから定説が確立しているとは思われません。
紙面の制約もあるため、ここでは私見として次の4点を挙げておきます。
〇不十分である女性の就業の促進と付加価値の高い仕事を女性に担ってもらうこと
〇ITの徹底的な活用で単純労働を脱して、高付加価値の仕事にシフトすること
〇何よりも「変化を怖れず時代に合った経営と働き方をする」こと
国際部 野村