個人的な話で恐縮ですが母親が亡くなったので納骨場所を探すことになり、新宿区内で何軒かの納骨堂と樹木葬を見学して廻りました。今まで関心が薄かったのですが、いざ自分が購入するとなると、つくづくこの業界の変化を実感するものですね、リアルに感じたことを2,3レポートさせて頂きます。
 新宿というと、ごみごみした人混みのイメージが先行しがちですが、実は意外にお寺町がたくさんあります。新宿区内だけでもざっと調べただけでも約120のお寺があり、その他に神社、霊園もあります。
 私が廻ったお寺に殆ど共通しているのは地域柄交通アクセスが良いこと、昔ながらのお寺が数年前にリニューアルして納骨堂や樹木葬を作って売り出していることです。


① 東長寺
 富久西という靖国通りと外苑西通りの交差する場所にあります。近くても通ることがないので普段全く気が付かないところです。ここの特徴は何といってもその建物、お寺そのものは普通なのですが納骨堂はお寺から道を挟んだ向かいの別棟にあります。「文由閣」と名付けられた白い漆喰の六角形の5階建ての建物なのでパッと見るととても納骨堂には見えず、何か謎のギャラリーのようで、こんなところに何の建物だろうと思ってしまいます。中に入ってまたびっくり、建物の作りは世界的に著名な建築事務所の設計だそうで、1階のロビーは天井が高く、この天井と5階にある法堂の天井は美術工芸品の一つ、別府の竹細工で製作されています。また4階の納骨堂位牌堂の納骨壇や位牌壇などは輪島塗、仏具の一部は高岡銅器で製作されており、100年後の後世に伝える宗教建築を目指しているそうです。その設備投資額は私には見当もつきません。


 それを回収するためか位牌は全部個人墓、納骨数を増やすべく?通常のサイズの骨壺で納骨するのではなく、その5分の1くらいのサイズ(確か骨の一部)をやはりそれくらいに縮小した位牌の下に入れるような方式です。そしてその納骨スペースがお釈迦様の周りに円形かつ階段状に後ろが高く並べる造りになっています。(これだとかなりの数が納骨できます)
 また、省エネへの取り組みとして、「パッシブ建築」という建物の断熱性能や遮熱性能を上げることによりエネルギーを消費しない設計で、かつ地中熱を利用した冷暖房システムだそうです。機会があったら、購入の有無にかかわらず、散歩がてら一度見学してみる価値はあるのではないでしょうか。特に建築物などにご興味のある方はお勧めです。

 

 

② 樹木葬
 私が見学した2つのお寺はいずれも販売は大手の石屋さんが代行していました。樹木葬というと、大きな木の周りに骨を埋めるイメージですが全然違いました。販売を委託された会社が、今の世代ニーズに合うようにいろいろ考えるんですね。私が見たのは花壇のような一つの芝生スペースが納骨ごとに区切られたタイプです。
 他に、樹木葬とは違いますが、合同の石碑の中に納骨するタイプもあります。これは販売会社が石屋さんだから石を使うことを考えたのでしょう。石碑には納骨した故人の名前とその周りには12の星座の絵が彫られています。どうして星座の絵なのかと聞くと今はあまり辛気臭いデザインは嫌がられるからだそうです。そして石碑は下が蓋になっていて、蓋を鍵で開けると地下への階段があり、その地下に複数の骨壺がロッカー式に収められているそうです。でも合同だから価格は私が見た中で最もリーズナブルです。たしか3万~だったと思います。

 

 

 納骨堂というのはいわば分譲マンションの購入と似ています。オーナーであるお寺が直営で運営・販売している場合もありますがそれを商社や石屋さんに委託する場合も多く、販売会社もあちこちのお寺から受託している場合が少なくないようです。
 都内のアクセスの良い便利な場所で気軽に身内のお参りができるのでニーズも多く、見学の予約は平日でも結構絶え間ない感じです。
 しかし購入側が難しいのは1度限りの買い物と違い、何十年、場合によっては子孫代々までのお付き合いになるかもしれないお寺を選ぶことです。(従来のような「先祖代々」というお墓の概念は変化しつつあるようですが)価格体系も単純比較ができないように各社工夫を凝らしています。例えば納骨してから、あるいは生前購入の場合購入申し込みをしてから33年経ったら合祀墓へ移すとか、一つの位牌の納骨数が限られているため3骨とか4骨まで、もしくは粉骨して骨を圧縮し、その分多く入るようにするとか、方法によってかかる価格もさまざま、また長い付き合いなので毎年お寺に払う管理料も馬鹿になりませんが、これも最初の購入代金が高いと全くかからないところや、50年分一括して支払うところなどもあります。売り手も、顧客がその子孫に引き継がれて変わっていくリスクを考え、また子孫に負担をかけないことを売りにしています。
 ここ20~30年で急速に変化した業界ですからこの先もどんどん新しい形態が生まれ、価格帯も変化するでしょう。しかし顧客側からすれば購入リスクは低くはないと思いますが納骨場所ニーズはなくなることはないでしょう。
さてこの納骨ビジネス、どう転んでゆくのか、今後の展開が楽しみですね。