新宿区中小企業診断士会の平山会長                                                                 

                                                                                    聞き手・文:津田美奈江(地域支援部)

 3回目となる今回は、今年会長に就任されたばかり、と言ってもその前は副会長としてご活躍だった、新宿区中小企業診断士会の平山会長のお話です。
 平山会長は、それまでも副会長として診断士会の総務部長を歴任、また城西支部では広報部長として「機関紙城西」の監修、「城西HP」の運営を担当されるなど、ご尽力されていらっしゃいました。


1. 新宿区中小企業診断士会の生い立ち
2. 会長としての取組み
3. 課題は内部体制の整備と即戦力を持った人材確保
4. 平山会長の専門分野

 

1.新宿区中小企業診断士会の生い立ち
津田:会長になられて、いかがですか、ますますお忙しくなったのでは?
平山会長:やっと少し落ち着きました。それまでは挨拶回りが大変だったけど。
津田:ああ、でも副会長の時と、相手は殆ど同じなのですか?
平山会長:相手が同じでも、会長になると責任が重くなりますし、お相手の見る目も変わりますね。
津田:新宿区診断士会は、一般社団法人ですよね、任意団体とはどのような違いがあるのですか?
平山会長:任意団体ですと契約の主体が会長個人となったり、お客様から見て経理が曖昧に見えたりしますし、規模の大きい仕事を区などが発注する際には契約上さまざまな困難が生じます。当会は2011年に、新宿区等における中小企業者等の健全な発展を支援することを目的として、それまでの任意団体の資産を引き継ぎ単独で法人化しました。
その後、独立した法人として新宿区等の商工行政への協力、商工団体の事業への協力、
区内の商工業者の経営支援、商店街支援などに独自の方針で注力しています。
津田:東京協会の法人化より早かったのですね。
平山会長:東京協会が法人化したのは、その翌年、2012年です。
津田:新宿区診断士会って、もともと成り立ちはどういうところからなのですか?
平山会長:もともとは、新宿区の相談窓口を請けていた診断士が集まって、地域振興のために組織化したのが始まりと聞いています。もう30年以上前ですね。診断士会もそうですが、士業の会、例えば弁護士会とか、税理士会、医師会などと同じで、それぞれ独立して仕事を持っている人の集まりですよね。あくまでそこで同業者同士の繋がりを持つ、情報収集をする、もちろん個人で受けられないような規模の仕事を診断士会として請けるためのものです。お客様である行政や関連団体としても「専門家」の支援を受けたいときに声をかける先としての役割は高いと思います。そのためには、信頼に十分こたえられる専門家の集まりであることが必須です。

 

2、新宿区の行政と診断士会
平山会長:新宿区では、区と、新宿区商店会連合会、東京商工会議所新宿支部、の3者が強く連携しています。それぞれの事務所もBiz新宿(新宿区立産業会館)内に集結していて、何かあればすぐ話ができますし、いろいろな業務や事業も協賛で行うなど連携はかなり強いです。新宿区の場合、各事業などが効率よく実施できるように戦略的に連携を強くしています。
津田:前会長などもおっしゃっていたし、ニュースなどでも聞いたのですが、今新宿、渋谷、豊島区などでは副都心構想とか言って、オリンピックのためだけじゃないのでしょうけれども、文化都市にすべく、そちらの方に力を入れているとか…。
平山会長:そうですね、観光・文化と、産業振興の両方に力を入れていますね。
津田:そうなのですか、なんか観光・文化に力を入れて、産業振興に予算が廻らなくなることはありませんか…(笑)
平山会長:いや、でもそれはオリンピックまでの一時的な話で、そのあとを見据えて新宿区は「産業振興プラン」を打ち出しています。それを見ると新宿区が今後どういうことをやろうとしているのか、どういう構造になっているのかがわかります。新宿区の理念、戦略、それに基づく各種の振興策が決まっています。一度、新宿区のホームページをご覧になってください。
津田:ホームページに載っているのですね、それは目を通さないと…。
平山会長:我々は、「診断士会」という看板を掲げている以上、経済産業省の流れに沿って仕事をするわけで、こうした行政や関連団体への協力は欠かせません。一般のコンサルタントとの差別化を明確にして行政や関連団体などのお客様にアピールしていくことが必要と考えています。
津田:そこへのパイプを強化すると。
平山会長:はい、その強化の方法ですが、今は診断士会の会員個人には直接仕事が来ていますが、診断士会としては少ない状態で、機会をとらえて診断士会に何ができるのかプロモーションをかけています。当会には高いスキルを持った人材が多く所属していますので、多様な要求に応えられるものと考えています。
津田:先日(新宿区診断士会の納涼情報交換会に)商店街連合会の会長さんがいらしてましたけど、今キャッシュレス問題とか、軽減税率対応とかで、大変なのではないですか?説明会とか。新宿診断士会は関わっていないのですか?
平山会長:昨年度ごろから消費税関連の講演にかかわっていた会員はいますが、診断士会としては関わっていないですね。商店会連合会や東商とかでも実施されていますし・・・。診断士の本業は税務や経理の処理などテクニカルな問題ではなく、税率の変更をチャンスととらえた「魅力的な値付け」を含めた拡販戦略、価格戦略などの戦略的な問題の解決にあると思っています。
津田:10月からですけど、知らない人が多いですよね。
平山会長:でもそれらは一時的な問題で、診断士としては中長期戦略の問題に目を向けるべきだと思っています。

 

3、課題は内部体制の整備と即戦力を持った人材の確保
平山会長:区からは、個別には私のところにもいろいろ仕事が来ますが、区にも産業振興以外のいろいろな部署もありますので、そこに対して「診断士」とはどういうことができるのかを見せていくこと、「診断士の認知度向上」が必要と思っています。まずはそこから始めています。
津田:新宿区の診断士会をPRしないと、ですね。
平山会長:そう、そこからですね、まずは「診断士とは何か」つぎに「診断士会ができること」ですね。新たな施策が具体的に動くのは、オリンピック終わってからでしょう。我々は「そのあとを見据えて施策の提案ができれば…」ということでしょうか。そのためには、今年度から来年度の頭くらいまでに、内部の体制の見直しを進めていきたいと考えています。時間はかかると思います。
津田:どうしてですか?
平山会長:会員の多くが、個人事業主として仕事ができていますから、新たな事業に取り組める時間的な余裕が少ないのも実情です。課題は、会員個人のスキルや実績のデータベースみたいなものが、お客様にアピールできるような形で整備されていない点です。入会するときはもちろん、把握していますが、「診断士会として何ができるのか」というお客様に向けた情報が整備されていないのが現状です。そういう情報を公開のデータベースにしておけば、お客様へのアピールもできますし、何か問い合わせや依頼があった時に適任者を紹介することも迅速にできます。会員にとってもマッチングのチャンスが広がると考えています。
津田:では、まずやりたいことは、内部体制の整備。
平山会長:区などに対して、宣伝できるようにしたいですね。こういうことができます、という。
津田:そういう会の営業活動っていうのは、会長だけでやられるのですか?
平山会長:現状はそうですね。営業活動そのものは、独立した診断士だったら基本できるはずです。そういう会員の力を活かして有機的に動きたいと考えています。
津田:でも、全部会長がやるって、大変ですよね。
平山会長:そうですね、先ずは会員のデータベースを整備し、営業活動を効率よくできるような仕組み作りが必要です。

津田:今会員数は50名くらいなのですね。会員を増やしたいというのはあるのでしょうか?
平山会長:会員数ではなく、即戦力が欲しいですね。
津田:即戦力というと…。
平山会長:さっき申し上げましたデータベースをもとに仕事を受注した時に請けられる人が必要で、請けてくれる人がいないと仕事は取れませんからね。
津田:スキルと経験を持った人が欲しい?
平山会長:そうですね、区を含めてお客様からは即戦力を求められますから。専門家ということで診断士登録しているのですから、「専門でない人が来て、これから勉強します。」では仕事になりません。少なくとも専門の分野に対しては「このことなら任せてください。」という人に来て欲しい。それはどこでもそうなんじゃないですか。
津田:例えばIT関係に強いとか、経理に強いとか、事業承継、事業再生の経験が活かせるとか。
平山会長:そう、「これだけは他の人に負けない」というような…でもそこで難しいのは、そういう人は自分で既に仕事持っていて忙しい…(苦笑)。そういう人は多いと思いますよ。

津田:商店街支援への取り組みはいかがでしょうか。
平山会長:商店街支援はボランティアになることが多いです。商店街支援は収益目的ではできません。支援によって地域の現状を肌で感じて、よく知ったうえで政策提案できるようにしたいですね。地域経済から地域の生活を支える提案が必要でしょう。
津田:個店の支援のきっかけづくりになりますよね。
平山会長:そうですね、商店街支援をすると地域の特徴、その商店街の特徴がよくわかるようになります。個店の支援にもつながりますね。ただ、商店街は個店だけでなく町内会なども含めて地域のコミュニティとして、地域の方々の生活に密着していますので、「経済」という一面だけでなく、より多面的にとらえる必要があると感じています。
津田:でも、新宿区って、以前お聞きしたように一部の商店街を除いては、商店街を盛り立てていこうという商店街が少ないようにみえませんか?
平山会長:実は、支援が必要な商店街っていうのは簡単にはわからないのです。そこで新宿区では商店街サポーターが、全部の商店会を廻って、常にサーチしています。しかし、それを我々診断士会でやろうとしても、無償での大規模の調査は困難ですね。
津田:商店街って莫大な数ありますものね。
平山会長:だから、まずは区や商店街連合会と密接に連携して、要望の高いところに注力する必要があると思います。
津田:でも、新宿はチェーン店が多いのではないですか?
平山会長:チェーン店は多いですが、本部の縛りが弱いところや、区内に何店舗か持っているようなチェーンだったら商店会にも入りますし、また、チェーンでも各店舗の個性を出せっていうところもありますね。定番的な仕入れは本部一括でも、メニューは店舗ごとに工夫させるとか。
津田:店舗に裁量権を持たせるわけですね。
平山会長:新宿には新しい多様な業態の店舗が数多く出店してきていますので、診断士としてもこれらの新業態に関する勉強が必要ということでしょう。

 

4.平山会長の専門分野
津田:ところで平山会長は、お住まいは離れていらっしゃるけど、新宿区の診断士会に入られてどのくらいになるのですか?診断士になられてからずっとなのですか?
平山会長:診断士になってからすぐですね、もう、16~17年前かな。
津田:以前お聞きしたのは、大学が工学院大学だったから。
平山会長:そう、新宿に土地勘はありますね、夜は歌舞伎町だったし。(笑)
津田:歌舞伎町ですか、(笑)歌舞伎町の全盛期ですよね。
平山会長:まだ危なかった頃ですね、今はだいぶ変わりました。
津田:でも新宿区って、榎木町とか、神楽坂の辺りは、まだ古い町名が残っている町が多いですよね、また、四ツ谷とかはまた怪談話が多かったりして、面白い街ですよね。
平山会長:そう、面白い。今ね、新宿区はIT関係の会社が増えています。創業も、ITを使ってこういうことをしたい、というような事例が多くなっています。
津田:会長の得意分野ですね。会長はもともと、SEだったのですか?
平山会長:いや、もともとは化学プラント屋でした。化学プラントの設計・とりまとめをしていましたが、オイルショックで化学プラント業界が落ち込んだ時期に、会社がFA(ファクトリーオートメーション)事業立ち上げることになったときに、お前できそうだから行けということになった。その後、SI(システムインテグレーション)事業を担当していました。
津田:すごいですね~、もともと工学院大学で理系だから、そういうことには入っていきやすかったのですね。では今は、ITっていうと、範囲が広いですが、どのような専門分野を…?例えば中小企業のホームページを作るとか。
平山会長:いや、そういうのは受けないです。今どのような情報サービスが求められているかのアドバイスとか、情報戦略の方ですね。
津田:情報戦略?ではある程度規模のある、中堅企業ですね。
平山会長:そうですね。
津田:どんな業種が多いのですか?
平山会長:大規模小売チェーンとか。どんなシステムにしたらいいかとか。
津田:大企業もやってらっしゃるのですか?
平山会長:大企業にシステムを納める中堅企業、大企業に納めるシステムの提案くらいまでですね。大企業では多くの人が絡み、何百億という大きなプロジェクトの1コマに過ぎないし、大規模のシステム開発では大企業の下にいくつも階層がありますから。
津田:全体が見えないですよね。
平山会長:その点中小企業はトップの顔と戦略、会社全体が見えますからね。大規模システムとは違った面白さがあります。大企業が手を出さないような新規のシステム、将来急拡大しそうなシステムなど魅力的なシステムを手掛ける中小企業を支援しています。
津田:大体お客さんは、知り合いからくるのですか?
平山会長:そうですね、もう長いですから。色々な経験を積んで広がってきました。診断士ってすごく幅が広い、だから、いろんな経験積まないと。広く深くですね。
津田:個人的には、会長はSNSとかなさるのですか?
平山会長:いや、SNSはしません。
津田:今個人企業とかだと、何かというとSNSで情報発信してとか言うじゃないですか。
平山会長:そうですね、ホームページ作ってアピールすれば仕事が来るとか、そう思ってる中小企業は多いですが、そういうことじゃないと言って回っています。
津田:ホームページとか、SNSっていうのは、あくまでも手段ですからね。診断士自体、何かというとホームページを改定してとか、SNSで情報発信しろとか、二言目にはそういうことが多い気がします。
平山会長:問題はそこではないですね。ホームページとか、SNSとか、それやればいいって思っているお客さん多いですが、「そうじゃない」と言いたい。短期的にはそれで少しは一時的に売上が上がるかもしれないけど、「流行りもの」みたいな、その時だけですからね、それよりも、2年、3年かかっても、その先を見据えて「この先どんな情報サービスが求められるのか」ということをアドバイスして、それで良くなればと思っています。
津田:なるほど、おっしゃる通りです。勉強になりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

【編集後記】
柔和な笑顔の平山会長、でも内面は、とてもしっかりご自分の考えをお持ちの方と言う印象です。そしていつも正直に本音でお話くださるせいか、どこか憎めない、不思議な魅力があります。時間はかかっても、これからじっくり新宿区診断士会を新時代に向けて変革していってください!応援しています。