最近、檀家とお寺の関係が疎遠になってきたといわれています。ご自分の菩提寺のお寺の名前、宗派もご存知ない方が多いとききます。私の母の実家は秋田のお寺です。小さい頃、遊びに行くと人の出入りも多かったように記憶しており、お寺は地域のコミュニケーションの場として一定の役割を果たしていました。しかし、最近は、お寺の存在は変わってきているようで、一般的にお墓参りとお葬式以外はお寺との関りが少なくなってきているようです。
 昭和の高度成長期を経て、地方から都市部へ人口移動による過疎化、少子高齢化、核家族化、単身世帯の増加等により、お寺の檀家数は減少しています。そのため、お寺の収入は減少し、地方を中心に「無住寺」という専任の住職が常駐できないお寺が増加しています。お寺は、今どのような状態なのでしょう。

 それでは問題です。お寺とコンビニエンスストアではどちらが多いでしょうか。正解は、お寺です。表のように、お寺の約7万7千ヶ寺に対し、コンビニエンスストアは約5万6千店であり、おおよそ2万軒ほどお寺が多いのです。しかし、約7万7千ヶ寺のお寺の内約2万2千ケ寺は、「無住寺」という専任の住職がいないお寺です。更にそのうち2千ヶ寺は、完全に宗教活動を停止しているといわれています。また、お寺の年間収入は、500万円以下のお寺が60%以下と推測されます。この中には、年間収入が200万円以下のお寺も相当数あります。いくら宗教法人が非課税といえども、これでは住職の生活もままならず、建物の維持もできません。「坊主丸儲け」は一部のお寺のことで、多くのお寺にとっては昔の話です。反面、コンビニエンスストアのほとんどは経営が成り立っています。(異論はあるでしょうが、お寺と比較しての話です。)当然ですが、店長がいないコンビニエンスストアなんてありません。
 その違いは何でしょうか。お寺という宗教法人は、戦後間もない昭和28年に施行された宗教法人法により、ほぼ自動的に宗教法人となり、その後、ほとんど廃止や統合はされていません。対してコンビニエンスストアは、最新のマーケティング理論に基づく出店計画により、収益の出せる場所に出店し、収益を出せない店は閉店されます。コンビニエンスストアは、人口10万人当たりの店舗数全国平均44店舗に対して、各都道府県ともその数に近い店舗数で設置されています。それに対し、お寺は、神奈川県の人口10万人当たり20ヶ寺から、滋賀県の227ヶ寺と人口当たりの数は10倍の差があります。(沖縄県は、例外として扱っています。)大まかには、人口の多い都市部はお寺密度が低く、人口の少ない地方はお寺密度が高くお寺は過剰な傾向にあります。いいかえれば、お寺密度が低い都市部は比較的経営が楽で、お寺が過剰な地方は経営が厳しいともいえます。
 しかし、都市部のお寺でも安心はできません。何しろ、最近はお葬式を出さず、遺体を直接火葬場に運ぶ「直葬」が増えているからです。「葬儀はシンプルにしたい」という意識が高まり、その究極の形式が「直葬」です。お通夜なし、お葬式なし、戒名なしではお寺には全く収入が入りません。現在でも都市部での直葬の比率は2割程度に達しているといわれます。この比率が増加することはお寺にとり大きな脅威となります。
 お寺は、「宗教法人」という性格上、経済合理性だけで行動できないのはもっともですが、経営が成り立たないのに存在し続けている状況も異常です。現在私は、お寺の経営サポートができないか模索し始めたところです。まずは、一定の収入があるお寺が、経営が安定し地域にも認められる存在になってもらいたいと考えています。もし、サポートを必要としているお寺があれば、協力させていただきたいと思います。