#13 NPO法人テラコヤ 代表 前田 和真さん

 「お⾦は無いけれど、夢を叶える為に⼤学受験を頑張りたい!」 そんな高校生を応援するために、大学受験のサポートを無償で提供する「カフェ塾テラコヤ」、体験型学習の場「テラコヤカフェ」を運営するNPO法人テラコヤ。ホームページには、フィロソフィーやパーパスが明確に掲げられており、子育て中の親の立場としてはその理念に頭が下がるばかりです。
2021年4月に活動を開始したばかりのNPOですが、ビジネスコンテストなどで複数の受賞歴があり、協賛される企業も増えてきています。パーパスを実現する現在の活動と今後のビジョンを法人代表の前田 和真さんにお伺いしました。

 

NPO法人テラコヤ 代表 前田 和真さん テラコヤカフェ入り口にて

 

勉強に対する高い志を持った子が来てくれます

 

― 私立中高校で教員をされていたと経歴にありますが、学校や塾ではなくNPO活動を始められたのはどういう経緯だったのでしょうか。

 

前田 私立中高にのべ7年ほど教員として務めた後、教育関係の会社を設立して今も運営しています。教育サービスを有償で提供している一方、キャリア教育は全ての子供が無料で受けられるようにするべきだとも考えています。子供たちが自分のキャリアを考える場を作ること、そのキャリアを実現するために大学受験をサポートをすることを目的にテラコヤの活動を始めました。もともとは自分の会社の資金を使って活動を始めたのですが、営利企業なのに無料でサービスを提供するってどうなの?という声もあったので、NPO(非営利団体)として活動することにしました。法人設立は2022年1月ですが、活動は2021年4月からはじめています。

 

― 大学受験のサポートが「カフェ塾テラコヤ」で、キャリア教育の場が「テラコヤカフェ」ということですね。まず前者の「カフェ塾テラコヤ」の活動内容を教えてください。

 

前田 中高生に対して無料で学習の機会を与えるということをやっています。一番メインは座学の勉強で、大学受験や高校受験を目的とする勉強のサポートです。オフィスの夕方以降の稼働率が下がったスペースだったりとか、あるいは飲食店の定休日に場所をお借りして、大学生たちにボランティアとして来てもらって毎週火曜日に勉強を教えています。学習以外にも、進路の悩みや家庭の悩み、学校での悩みなどいろんなことを話しています。

 

― どんなお子さんが来られますか。ここに来るまでは学習の習慣ができていなかったような子もいるのでしょうか。

 

前田 傾向は顕著にでていて、勉強に対する高い志を持った子しかいないです。そもそもテラコヤの情報発信がFacebookやInstagramといったSNSなので、自分で情報をキャッチしてくる子しか来ません。ごくまれに親に連れてこられることがありますが、そういう子は続かず途中で来なくなります。

決まったカリキュラムや講義型式の授業はやっておらず、子供たちの自学自習、自走力頼りなので、自分から動かなければ得られるものは多くありません。カフェの運営を通して、こういう力を身につけなきゃいけないなとか、こういうことが自分の将来の目標かなあ、というのを見つける場になればいいと思っています。それを座学にも生かして、いい循環みたいなものができたらいいなと思います。うれしいことに、去年高校3年生だった1期生は全員大学に合格することができました。

ある日のカフェ塾テラコヤの様子

 

― おめでとうございます。全員合格はうれしいですね。

キャリア教育の場である「テラコヤカフェ」についても教えてください。高校生が主体ということですが、どのように運用されているのでしょうか。

 

前田 座学とは別の体験型学習の場です。一般のお客様に食事や飲み物をお出しします。今年の4月から6月に別の場所で試験的にやってみて、その経験をベースに運営しています。以前はスタッフ総出で朝から晩まで付き切りで一緒にやりましたが、徐々に経験を積んで子供たちに任せられるようになってきました。カフェは毎週日曜日、池袋にある養老乃瀧(株)のイベントスペースと、椎名町にある「シーナと一平」というポップアップストアで開催しています。椎名町の方はスタッフはおらず、経験のある高校生にすべて任せています。

その他にも実践型学習の試みとして、テラコヤに来ている高校生が中学生に勉強を教える「テラコヤ中等部」など、いわゆるPBL(Project Based Learning)と呼ばれる、何かテーマを与えられて、それに対して総合的に学びを得るという場も提供しています。

 

自分のようにキャリア設計に悩む子供を出したくない

 

― 子供達にとってとてもいい経験の場だと思います。前田さんは営利企業を運営されていますが、なぜ非営利の活動もされているのでしょうか。

 

前田 半分結果論ではありますが、無料であることによっていろんな子供に出会える。経済的に恵まれていないとか、外国人であるとか、体が不自由であったり、色んな子がいることによって勉強以外の学びにつながっていくこともあると思っています。塾や私立学校だと、ある程度経済的なものも必要なので足切りをされるラインがありますが、自分はそうじゃないところで関わりたいと思いました。

私はある程度いい教育を受けさせてもらってきたと思っており、大学を卒業して教師になりましたが、自分自身のキャリアは悩み続けていました。いろんな教育を受けてきたのに25、26になっても自分のキャリアを設計できていないことにふがいなさを感じてました。起業したきっかけも、そういうキャリアに悩む子供たちを出したくないという思いからです。

 

― 私たちの時代は受験戦争などと言われて、とにかく偏差値の高い学校に進学することが目的になってしまっていたように思います。今の子はキャリア教育を受けており、10年後20年後の自分のキャリアを考えて進路を決めなさいと言われているようですね。

 

前田 自分の年代は過去の受験戦争の時期と現在のちょうど境目で、中高生まではとにかく勉強すればいいという感じでした。教師になってからは、キャリアを考えないといけないと生徒に語っていましたが、自分のキャリアは設計できていなかった。テラコヤカフェは、まさに高校生がキャリアを考えるきっかけになればと思ってやっています。

 

― 先日雑誌で、大学入試の3、4割は既に総合型選抜になっており、今後さらにその比率が高まっていく、という記事を見ました。そうなると、学力よりも多様な価値観であったり、広い経験や体験が重視されていくようになるのでしょうか。それらに時間を費やすことによって、基礎学力が低下するようなことにはならないですか。

 

前田 たとえばアメリカだと、総合型選抜のような入試がほとんどで、必要な体験はお金を払ってやったりするそうです。そうすると経済力による格差が広がってくる。カフェ運営のような経験や体験こそ無償で提供するべきだと思っています。一方で、基礎学力は従来と変わらず重要です。何かを経験するにしても、物事を知らなければ経験の価値も限られたものになってしまいます。座学も体験も並行してやっていくべきだと思いますが、基礎学力の習得の選択肢は今すごく増えています。映像授業を視聴する場合、倍速で見ることもできますし、学習アプリで効率的に勉強することもできます。DX化できるところはどんどん機械にまかせて効率的に基礎学力を身につけて、空いた時間で体験型の学習をするのがいいと思います。

 

高校生が運営するテラコヤカフェ

 

企業の共感が、持続可能な組織運営

 

― 勉強を教える場所はオフィスや飲食店の空き時間とのことですが、具体的にどのような事業者さんが協力されているのでしょうか。またそこの社員さんも関わっているのでしょうか。

 

前田 西池袋のジオラマカフェ、サンシャインシティのオフィススペースと(株)良品計画のオフィスをお借りしています。最近は、多摩センター駅前で(株)キャリア・マムの運営するカフェと渋谷の(株)キカガクのオフィスが加わって、5拠点で運営しています。キャリア・マムとキカガクでは、場所の提供に加えて、社員さんがボランティアで協力してくれています。サンシャインシティや良品計画でも、たまに社員さんがやってきて子供たちの勉強をみてくれたりします。協賛してくださる企業としては、場所を提供することでSDGsへの取り組みを始めるきっかけになっていると思いますし、社員のボランティア精神の醸成に役立っている面があると思います。

 

― 教育や食はSDGsの非常に重要なテーマだと思います。サステイナブルということで、持続可能な組織運営の面で気をつけられていることはありますか。

 

前田 どこのNPO団体でも同じだと思いますが、資金繰りが問題です。寄付金助成金以外でもNPOとして稼ぐ力を身に着けていかないといけない。法人化する前は助成金を得ることも難しいので、クラウドファンディングで資金調達をしたり、ビジネスコンテストに応募して賞金を得たりもしました。カフェの営業では利益が出ない、というか利益度外視でやっています。金額は多くありませんが、運営費用の一部はカフェで使用するエプロンに企業のロゴを付けることで得られる広告収入を充てる、といった工夫もしています。カフェやテラコヤの運営も広がってきているので、いろんなところでスポンサーをつけるということもやっています。

 

― スポンサーはどうやって見つけられるのでしょうか。

 

前田 スポンサーさんはSNSを通して声をかけていただくこともありますが、知り合い経由での紹介が多いです。当法人は行政とも繫がりがあるので、そこから紹介を受けることもあります。

 

継続こそNPOのブランド作り。スタッフの支えが連なってこそ。

 

― スタッフやボランティアの方はどのように募集されるのでしょうか。

 

前田 スタートは高校の同窓生である副代表の互(たがい)と2人で始めました。高校で教えていた生徒が大学生になってボランティアとして来てくれたり、SNSから入ってくることもあります。現在大学生も合わせて40名以上になり、どんどん増えています。立教大学のボランティアセンターにビラを置かせてもらったり、ボランティア系のサイトにも掲載していますが、SNS経由が多いです。SNSはFacebook、Instagram、最近はYouTubeに動画も上げています。

 

― ボランティアがどんどん増えているとのことですが、スタッフのシフトや参加者の管理はどうされていますか。

 

前田 日曜日のカフェはスタッフが交代で対応します。火曜日の学習は全員総出で3拠点に分かれて面倒を見ています。規模が大きくなってきたので、人繰りや運営管理の担当者が必要になり、常勤スタッフを雇って任せています。本来はスタッフの皆に給料を払っていきたいと考えていますが、NPOは利益が出るスピードが遅いと感じます。

ただ、NPOは続けていくことで価値やブランドができてくるものだと思っているので、続けていくことを一番大事にしています。組織を続けていくためには、当然儲ける力も必要である一方、色んな方々の善意で成り立っている団体なので、その思いは大事にしたいです。もっと利益を出そうと思えば出来るのかもしれませんが、義務が生じることで助けてくださる方々の善意に応えられなくなってしまってはいけないと思います。

 

― 組織を続けていくことを大事にされており、スタッフも増えているなかで途中でやめるという選択肢は無いと思いますが、受験勉強をサポートされている立場として、面倒をみている生徒の受験が終わるまで途中では抜けられない、といったプレッシャーのようなものはあるのでしょうか。

 

前田 もちろんサポートは続けていかないといけません。皆の支えがあって成り立っている組織なので、もし自分がいなくなったとしても続いていくと思います。自分が辞めることはないですし、皆に支えられているのでプレッシャーはありません。ありがたいことに、企業さんのご協力のおかげで場所代等のコストもほとんどかかっていないので、出費はものすごく抑えられています。そういう意味でもプレッシャーはないですし、続けていけると思っています。

カフェ塾テラコヤでの勉強の様子

 

― 今後5年後、10年後に達成したいビジョンはありますか。

 

前田 5年以内に47都道府県に拠点を作りたいです。多摩センターや渋谷で試し始めていますが、テラコヤのスタッフがいなくても、その地域で教える人教えられる人がいて、それをサポートしてくれる地元企業があってという風に、その場所で完結できるようになるといいと考えています。カフェの運営とか、テラコヤが提供する複数のコンテンツを学習者が選択できるアプリを作って、そのアプリ上で自分が参加したコンテンツがマイページに蓄積されていくようなものを考えています。そのようなツールを使って、質的な部分も確保しながら、量的にも広がっていくといいなと思います。

※ 取材内容は2022年10月現在

※ 後日、当プロジェクトメンバーのサポートのもと、テラコヤの高校生2名による経営者インタビュー、および、記事の執筆を行ってもらいました。その記事はこちら

 

[団体情報]

NPO法人テラコヤ

無償の大学受験指導「カフェ塾テラコヤ」、体験型学習の場「テラコヤカフェ」の運営

HP: https://www.npoterakoya.org/

FB: https://www.facebook.com/terakoya.school.for.all

Instagram: https://www.instagram.com/terakoya_school/

〒171-0021 東京都豊島区西池袋2-9-9-102

TEL:03-6822-4718 

e-mail:info@npoterakoya.org

(余禄)

代表の前田さんは淡々とお話されましたが、言葉以上に子供たちを大事に思っておられる気持ちや楽しんで活動さている様子が伝わってきて、聞いているこちらも楽しい気分になりました。学習サポートは、大学生ボランティアに頼るところが大きいので、授業や就職活動が忙しくなると辞める人もいるのではないかといらぬ心配をしましたが、支えてくれるスタッフはどんどん増えている状況で、自走式の組織となっているようです。人的資本経営による自律自走式組織では、離職率が低く生産性が高くなるという調査結果もあります。企業の組織運営にも参考にしたいと思いました。(水越嘉隆)

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