米国発 「人工衛星の監視カメラ化」
国際部 宮下
商用の人工衛星画像の解像度は年々向上し、撮影頻度も増加している。米国の規則では商業衛星によって撮影された画像の地上解像度を25センチメートルに制限して匿名性を確保しているが、いずれどこにいても四六時中人工衛星に監視される日がやってくるかもしれない。
オレゴン州グランツ・パス警察は、カーティス W.クロフトという男が裏庭で大麻を不法栽培しているという情報を得た。警察がグーグルアースを確認したところ、4カ月前に撮影された衛星画像に、クロフトの敷地内に整然と育つ大麻が確かに写っていた。警察はクロフトの自宅に踏み込み、94本の大麻を押収した。
2018年にはブラジルのアマパ州の警察が、リアルタイムの衛星画像を用いて、森林が伐採されている場所を発見した。警察が現場に到着すると、現地では木炭が違法に生産されており、8名が逮捕された。
商用衛星画像は、年々解像度が向上し、撮影頻度も増加している。2008年には、150基の地球観測衛星が地球周回軌道上にあったが、現在では768基が投入されている。人工衛星企業は24時間体制のリアルタイム監視サービスは提供していないが、大げさな宣伝文句を信じるなら近いことをしているようだ。衛星画像のイノベーションは、(他の国々は言うまでもなく)米国政府による衛星画像技術の規制能力を上回っていると、プライバシー擁護派は警告する。現時点でより厳しい制限を課さない限り、広告会社から不倫を疑うパートナー、テロ組織にいたるまで、かつては政府の諜報機関のみが活用できたツールを誰もが使えるようになるだろうと、プライバシー擁護派たちは言う。つまり、誰もが他の誰かを常に監視できる世の中になるかもしれないのだ。
高解像度化のすすむ衛星画像
商用衛星画像ビジネスはいま、活気づいている。ただ、車を確認するには十分な解像度はあるが、メーカーやモデル名を見分けられるほどではない。農作物の健康管理をするには十分な頻度だが、近所の人の出入りを監視できるほどではない。こうした匿名性の確保は、考慮された上でのことだ。米国連邦規則は、商業衛星によって撮影された画像の地上解像度を25センチメートル、つまり靴の長さ程度に制限している(解像度の高さは機密だが、軍のスパイ衛星は、はるかに高解像度の画像を入手できる)。
米国海洋大気庁(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)が地上解像度を50センチメートルから25センチメートルへ緩和した2014年以来、ほとんどの顧客が解像度に満足してきた。投資家は石油貯蔵タンクにかかる影から浮き屋根の高さを測って油量を予測でき、農家は洪水を監視して作物を保護できる。人権団体はミャンマーやシリアからの難民の流れを追跡している。
携帯電話のGPSデータは合法的なプライバシーの脅威だが、少なくとも、自宅に電話を置いていくという選択肢がある。一方、衛星の監視カメラから身を隠すのはより困難だ。人工衛星企業や分析企業は、データの匿名化に注意を払い、特徴が特定されるような箇所を削除しているという。ただし、人工衛星が顔を認識しなくとも、人工衛星画像と他のデータの流れ(GPSや防犯カメラ、ソーシャルメディアの投稿)が組み合わされると、プライバシーが脅かされるかもしれない。
人類の自由の将来
米国プライバシー関連法には、人工衛星に関する明確な規制はない。一般的に裁判所は空中査察を認めているが、2015年、ニューメキシコ州最高裁判所は、警察による令状なしの「空中捜索」は違憲とした。多くの場合、監視行為が誰かの「プライバシーに関する合理的な期待」を侵害しているかどうかが問題となる。公道で撮影された写真はどうだろうか。許容範囲だろう。寝室の窓を透してドローンが撮影した写真はどうだろう。おそらく違法だ。では、数百キロメートルも上空の軌道上にある衛星が、車が私道に入ってくる様子を撮影した場合はどうだろうか。不明だ。
あらゆる人がデータ・プライバシーの基準に同意するまで、人工衛星画像に関する永続的なルールを作るのは難しいと思われるが、誰もが打開策を探しており、人類の自由の将来は、データ・プライバシーにかかっているのかもしれない。(出典参考:MIT Technology Review)
(2020年1月)