中小企業による越境ECの可能性

城西支部 国際部 中川卓也

1.日本のEC(Electric Commerce・電子商取引)の市場規模

2018年の日本のB(企業)to C(消費者)間のEC市場規模は17兆9,845億円で前年比8.96%増と大幅に増加しています。EC化率も前年の5.79%から6.22%と大きく伸長しています。因みにEC化率とは、すべての商取引の内、電子商取引が占める割合のことを指します。

BtoC間のEC以外に、CtoC-EC市場(個人間のネットオークション)、BtoB-EC市場(企業間の商品売買)があり、それぞれの2018年の市場規模は、推計6,392億円(前年比32.2%増)、 344兆2,300億円(前年比8.2%増)となっています(経済産業省商務情報政策局情報経済課作成「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備報告書」より)。

    【図表1】日本のBtoCの市場規模及びEC化率の経年推移 (単位:億円)

      (資料)平成31年5月経済産業省商務情報政策局情報経済課作成「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備報告書」より

 

2.越境ECの現状

「越境EC」とは、インターネットを使った海外への通信販売のことです。世界の越境BtoC-EC市場の規模は図表2の通り推定6,760憶ドル(前年比27.5%増)の表の通り急速に伸びています(2018年以降は推計値)。

この原因は、①安価なスマートフォンの普及に代表されるモバイルインターネット環境の拡充、②翻訳機能の向上により主要ECモールが多言語化に対応、③安全な決済システムの発展などによるものと考えられます。

また、越境BtoC-EC市場においては、図表3の通りアメリカと中国が飛びぬけて大きな市場規模を有していることが分かります。日本の規模は20憶USドルと米中2国に比しまだまだ小規模に留まっています。

(注)各データにより、調査方法や越境ECに参入するカテゴリーの相違により越境BtoC-EC市場の数字は必ずしも一致していない

     【図表2】世界のEC市場規模

        出所:Alizila社Jan2017 調査により経産省作成(同上資料より)

    【図表3】主要な BtoC 国別越境 EC市場規模(消費国)(世界 10市場対象)(単位:億 米ドル)      出所:UNCTAD(2017) Information Economy Report 2017: Digitalization, Trade  and Development調査により経産省作成(同上資料より)
                       

先にみたように日本のBtoC-ECの2018年の市場規模は17兆9,845億円で前年比8.96%増とそれなりに大きく成長していますが、BtoC-EC全体と越境ECの違いがあり単純に比較できないものの、世界の越境BtoC-ECの2016年~2017年の伸び率32.5%、2017年~2018年の伸び率(推定)27.5%と日本を大きく凌ぐスピードで伸長しています。

日本の消費市場は、人口の減少傾向もあり消費市場の伸び悩みが懸念される環境にありますが、越境EC市場を積極的に取り込むことによって大きな市場を獲得できる可能性があります。

特に越境ECの取引額が大きい米国や中国の越境ECユーザーや潜在的ユーザーの需要を取り込むことが重要と考えられます。更に、百度(バイドゥ)の調査によれば、「越境ECサイトでどこの国の商品を購入することがありますか(複数回答)」という質問に対し、「越境ECで商品を購入した国」の結果は、日本58.0%,韓国52.5%、アメリカ48.4%、オーストラリア26.7%、ドイツ22.2%と続き、購入先トップは日本となっています、BtoCのEC市場において世界過半数のシェアを誇り、巨大な越境EC市場を形成している中国の購入先トップが日本であることは、大きな可能性を期待することが出来ます。

広大な相手国市場で、需要家は限られた人たちであり、しかも所在地が分散しているような場合、実店舗を開いてもまず採算は取れません。また、出店についての許認可などの手続きも大変な手間が掛かります。その点、EC市場に参入すれば、インターネットが繋がる場所ならどこでも商圏にすることが出来ます。このような市場を中小企業と雖も、見逃すことはできないと思われます。

それでは、越境市場に参入する方法には、どのような手段があるのでしょうか。

3.越境EC市場への参入方法

中小企業にとって自社のECサイトを構築することは、言語の壁や、代金決済手段や配送方法の確保、受発注システムの開発、集客などを自前で構築する必要があります。中国の場合、許可を得るのは困難です。このため中小企業にとっては費用面・人材面でも難度が高くなります。

そこで以下のようなECモールに出店する方法があります。注意すべきは、ECモールに出店する場合、出店時の固定費に加え取引1回ごとに手数料が発生する点です。各モールによく問い合わせて詳細を調査する必要があります。また商品の配送は受取通知や付保サービスがあるためEMS(国際宅配便)が使われることが多いのですが、重量のある商品では配送料が高く付くことに注意が必要です。

(1)日本国内ECモールに出店(出品)する

  • 楽天やグローバルマーケット、オークションのメルカリなどが挙げられます
  • サービス対応、サポートが全て日本語で可能で、契約や問い合わせやトラブル発生の際に便利である
  • 相手国のECサイト開設ライセンスの問題がなく、すぐに出店できる。また翻訳関連業務などの代行サービスがある
  • ただし、海外での認知度が必ずしも高くなく集客力は弱い

(2)海外の大手モールに出店(出品)する

  • AmazonやeBay、中国ではアリババの運営する天猫(Tモールグローバル)や京東のJDワールドワイドが挙げられます
  • 日本法人を有しているECモールであれば日本語のサポートを受けられる
  • 世界でも認知度が高く多くの需要家がアクセスしてくる。場合によってはBtoBの需要も発生する可能性もある
  • その反面、巨大モールのため販売者の商品が埋没しがちである

(3)越境EC事業者に業務を委託

  • 既に越境ECを行っている事業者と業務提携し越境EC業務を委託する方法。条件面、採算面など十分に詰める必要がある
  • 日本国内のECサイトを有している場合、専用バナーを日本語のECサイトに貼ることで、海外会員ユーザーに商品を転送する「海外転送サービス会社」(楽一番、転送コム等)も存在する

どの方式を取るにせよ、自社商品がどの国の需要に合致しているか、また販売対象国のモール内の類似商品の価格を参考に、ECモール出店コスト、配送費、関税などを考慮した価格の設定、プロモーション対策などを検討することが必要とされます。

 

4.中国の越境ECで人気のある商品

 中国商務部の調査では、越境EC(輸入)商品の構成は以下のようになっています。

 

5.越境EC参入で注意すべき事項

(1)偽造されたクレジットカードの利用や正規カードの不正利用

一旦発生すれば代金や商品の回収はまず不可能です。高額な注文が入った場合は要注意で本人確認の手続きが必ず行わなくてはなりません。

(2)損害賠償訴訟のリスク

  製品の不備により購入者がケガをしたり健康を害した場合、訴えられる可能があり、その場合裁判管轄所は相手国になるため、現地に赴いたり弁護士費用が発生するなど大変面倒なことになります。海外PL保険を掛けるなどの対策を考慮すべきと思われます。

(3)相手国の法令違反

  相手国の輸入制限品目の規制や、食品添加物・残留農薬など日本では認められていても相手国で禁止されているなど、事前の調査不足から相手国の法令に違反しており場合もあります。JETROなどを通じて確認しておく必要があります。

(4)商品の破損や商品不着の発生

  商品の配送環境は日本のように丁寧ではありません。商品の破損や商品の紛失の起こる可能性は十分にあると考えられます。ECサイト側の責任ではないにしても、対応を間違うと口コミに悪い評価を書かれ評判を落とすことになりかねません。損得ではなく代替品を再送するなど消費者に丁寧に対応する必要があります。

(5)外貨での販売になるため為替の影響を受ける

  為替動向に注意しながら販売価格を定期的に見直すことも必要とされる。

6.まとめ

以上、簡単に越境ECの概要をまとめて見ました。海外のEC市場は、日本とは比較にならないほど急速に発展しています。日本の国内消費市場が、今後人口減少に伴い縮小して行く可能性も論じられる中、中小企業にとり海外市場の開拓は避けて通れない課題と思われます。

その一方、海外に販売拠点を開設するには、許認可など現地の法律問題、費用の問題、人的資源の問題などがあり容易なことではありません。そこで、上手く越境ECを利用することで、低コスト・低リスクで海外市場に参入できる可能性があります。

最近はインバウンド旅行客も大幅に増加し、来日時の購入した日本の商品・製品を気に入り帰国してからも購入したい人も増えています。海外のECでは時により偽物や粗悪品が見られる中、ECを使い日本からダイレクトに購入すれば信頼のおける商品・製品を手に入れることが出来ます。ECの利用はインバウンド消費を旅行者の帰国後も補足する手段となり得ます。

EC大国のアメリカや中国のみならず、今後インドネシアやベトナムなどのアジア諸国においてもEC市場は拡大してくると思われます。もちろんモバイルツールの普及度や決済方法・習慣の違いがありまだ簡単ではありませんが、EC市場のブルーオーシャンと呼ばれています。

越境EC市場の開拓は、中小企業にとり今後検討に値する重要課題と思われます。

以 上