#33 株式会社SEKT 代表取締役社長 関 高志 さん
限られた経営資源を最適に配分することが経営だとすれば、業務プロセスの一部分を切り離し、業務委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング。以下同じ)は、企業にとって有益な選択肢となり得ます。
株式会社SEKTは、支援先の業務改善という課題への対応を中心に据え、コンサルティングからBPOの設計及び運用、オフショア開発の支援を柱として事業を展開しています。
競争の激しいシステム開発・コンサルティング業界において、中でもBPOの設計・コンサルティングとオフショア開発支援により他社との差別化を図る一方で、会社の規模拡大を目指す経営とは一線を画し、従業員の独立支援も進めながら、創業18年目を迎えます。
関社長に、どのように考え、そのような経営手法に至ったのか、お話を伺いました。
幸運が重なった先にあった祖業
― 御社は、システム開発はもちろんですが、BPOの設計のコンサルティング及び運用、オフショア開発の支援を事業の柱にしていらっしゃいます。システム開発会社としては、特徴的な事業展開かと思います。創業当時からそのような事業展開だったのでしょうか。
関 実は、正直な話で申し訳ないのですが、私はもともと起業したいという強い思いがあったわけではないんです。
― そういう状態から始まって創業18年目を迎えるというのも興味深いですね。どういった経緯で起業するに至ったのでしょう。
関 もともと私は、大手システム開発会社の子会社でシステム開発に携わっていました。親会社に入社する選択もできたのですが、時代はまだバブル崩壊前で、システム開発を中心に据えた新しい子会社であればおもしろいことができそうだなとそちらへの就職を選びました。しかし、入社後十数年が経ち、いつの間にか自分が選択しなかったはずの選択肢と同じように思える、おもしろさよりも安定という日々が続き、このままでは成長が止まってしまうという危機感から、会社を辞めようと決意していました。当時はまだ起業はもちろん、転職するという気持ちもなく、先ずは当時の状況を打破するために辞めてみよう、外国に行ってみれば何かが変わるかも、という淡い期待を持っていただけでした。
― 例えば、転職は“猿の枝渡り”に例えられることも多いですが、辞めた後の予定を決めないまま辞めるのは、チャレンジなようにも見えます。
関 そう見えるかもしれませんね。ただ当時は、なぜか会社を辞めたとしても何とかなるのではないかという楽観もありました。いざ会社を辞めるという段になり、以前一緒に仕事をした元上司二人から別々に「会社を辞める前にこれだけ手伝ってほしい。」と声をかけてもらったのが、中国で行う予定のBPO設計と日本側の支援でした。
当時のBPOは、とにかく人を投入することで業務を代替するという方向のもので、システム開発でもなかったので、誰も手を上げなかった。だから私のところに回ってきたというのが現実だったのだと思います。
実のところ、中国への語学留学だけは決めたのですが、タイミングの問題で入学が半年後となったため、それまでの間、BPO設計とオフショア設計の支援を行うことにしました。
― そこでBPOに携わることになったんですね。
関 そうです。そして予定どおり半年後にプロジェクトを離任して退職することにしたのですが、せめて中国側の支援を継続できないかというオファーをもらいました。中国での生活や家庭教師の設定など魅力的なオファーだったこともあり、中国側から支援を継続することになりました。
当時、会社法が制定され、起業しやすくなっていたこともあり、完全な一人会社でしたが、一度会社を作ってみようと起業に至りました。
― それでは、BPOコンサルティングやオフショア開発支援というのはまさに祖業ということですね。
関 そうですね。振り返ってみても、私自身は幸運の重なりの中に、今の会社の事業展開があると思っています。いろんな人に助けていただいたというのが正直な感想で、今もたくさんの方々に支えていただいているという思いでいます。
委託先ではなく協働者として
― その後、中国ではどのくらいの期間、仕事をされたのでしょうか。
関 中国では、2年ほど支援を続けました。
先ほど話したとおり、その当時のBPOは、およそIT企業が参入するものではありませんでした。
ここにITを活用して効率的に行う方向で関わりました。その当時の中国は、それこそすごいエネルギーが渦巻き、外に向かって力を放ち始めた時期でした。
― 中国のエネルギーが大きくなっていった時期は、日本にいても感じていました。その後も中国に滞在されていたのですか。
関 中国での支援が落ち着いたころ、出身の会社から当社に、といっても私一人ですが、BPO案件の支援の依頼があり、日本に戻りました。その後は、基本的に日本と中国を行き来しながら、祖業ともいえるこのフィールドで事業を継続しています。
当時、この分野での実績や経験がある人間が少なく、私がその内の一人だったのだと思います。
― 御社の強みやステークホルダーから評価されているのは、どのような点だと考えていますか。
関 私は、会社員として仕事をしていた当時から、誰かがよろこんでくれることで、自分もうれしいと思えることがあって、そこにちょっと背伸びしたら手が届きそうなのであれば、チャレンジしてみよう、というスタンスで仕事をしてきました。それは、いまでも当社の仕事におけるスタンスとしています。何かをこなす仕事ではなく、委託元やステークホルダーが付加価値を感じてもらえるものを一緒に考え、提供する、そういう風に感じていただけているかもしれません。
― 委託先としての立ち位置より先にあるように思えますね。
関 委託元とか委託先とかではなく、互いにパートナー、もっと言えば協働者としての立場に居ようと考えています。
― 具体的にはどのようなことでしょうか。
関 先ほど、当時のBPOは、大量の人員を投入することで代替する方向だったとお話ししましたが、例えば紙ベースの申込書や証明書などは、当社のようなIT企業が参入し、効率的に、かつデジタル化できるようになりました。
一方で、内容のデジタル化は成果ではあっても目的ではありません。デジタル化されたデータは、次の行程でコード化したり、分析用データベースにするなど、いずれ何かに利用されることになります。デジタル化を目的とすることなく、デジタル化の先を想定し、どのようなデータとしてお渡しすることがお客さまのうれしいにつながるのか、事業の発展に寄与するかなども考え、提供しようとすることであり、これは、当社にとっても有益なものです。
このようなデータの活用はほんの一例ですが、協働者として、どういう付加価値を提供できるかを常に考えています。それによってお客さまがよろこんでいただけると、その結果として当社も事業の幅や深さを広げていけるという、WIN-WINの関係であると考えています。
― それにはお客さまとの関係を、より密にしていく必要がありますね。
関 仕事を進めていく上では、お客さまがお話をされていることはもちろん、お話はされていないけれど、その先に考えていらっしゃることや、今後考えることになるであろうことも推察しながら、話ができることが必要になってきます。
事業を継承していくために
― 御社が評価されていることを続けていくには、社内における御社のスタンスの浸透が十分になされる必要があるように感じます。それについては、どのように進めていらっしゃるのでしょうか。
関 創業の経緯もあって、もともと会社の規模を大きくすることにあまりこだわりを持たずに、経営をしてきました。また、当社の社員には、独立するチャンスがあるのであれば、早く独立して、そして縁があれば一緒に仕事をしましょう、ということを伝え、積極的に独立を支援してきました。これは今も変わっていないです。
一方で、当社のスタンスを維持しつつ、事業を継承して行くために新卒採用を始めました。
― これまでは中途採用のみですか
関 そうです。ただ先ほどお話したようなスタンスで事業を継承することを考えると、スキルとか知識とかそういうものだけではなく、仕事に対する姿勢、ヒューマン・スキルという部分が重要になってきます。そのためには、仕事に対する考え方について柔軟な人材に対して、しっかりと伝えていくことが必要と考え、新卒採用を始めました。
現在は、その部分に関する研修を手厚く行っています。これまで採用した新卒社員は、全員が東南アジアやアフリカなどの外国人です。彼らは、潜在的な能力が充分に感じられるのはもちろんですが、仕事に対して真摯に取り組む姿勢もありますし、何より何事にもがむしゃらに立ち向かっていくパワーを感じます。
それもあって、事業の継承についても十分に可能性を感じています。
お客さまとの対話の先にある未来
― それは心強いですね。今後の御社をどのように考えていらっしゃいますか。
関 この話をいただいた時に、「弊社の経営に逆算はあるのか」と自問とともに考えてみました。これまでかっちりとした計画を立てて事業を展開してきた部分はそれほど多くないのですが、一方でお話したとおり、いただいている仕事において、その先をお客さまと対話し、お客さまの考えや思いなどを協働者として一緒に考え、より付加価値の高いものにしようとする中で、当社のフィールドの幅や深さを広げてきました。それもあって実は、当社の経営には逆算はなく、足し算や掛け算で考えているのではないかとも考えました。
これからも、このスタンスは変えず、自社のフィールドの幅や深さを広げながら、お客さまにとって付加価値を提供していければと考えています。
また、新卒社員との対話を進める中でも感じますが、当社のフィールドを、国内のマーケットにとどめることなく、世界にも広げていければと思っています。そのために必要だと考える、当社のスタンスを継承する部分も緒に就いたところです。
― これからも委託元やステークホルダーにとって、頼られる御社であることを期待しています。
ありがとうございました。
※取材内容は、2024年8月現在
[企業情報] 株式会社SEKT https://www.sekt.co.jp/index.html 提供サービス 業務改善コンサルティング、BPO運用&コンサルティング、オフショア開発サポート 〒135-0016 |
(余録)
関社長は、逆算はなく、足し算と掛け算で経営を考えているのではないかと考えたとおっしゃっていました。しかし、その実は、委託された仕事に対して先回りして足し算や掛け算の問いを立て、隣接するフィールドにある答えを予測し、その答えをしっかりと見据えて委託元やステークホルダーと一緒に進んでいらっしゃるという印象を持ちました。広がっていく先は、お客さまと対話する中から必ず見つかるという信念とともに、協働者として付加価値を提供することで応える姿勢は、委託元やステークホルダーにとっては頼もしい存在であることは容易に想像ができました。そして、そこにはたくさんのうれしいが詰まっているであろうことに思い至りました。(永山 陽一)