#43 テクノツール株式会社 代表取締役社長 島田真太郎さん
「できない」と決めつけていたことが違った瞬間を、多くの人が一度は味わったことでしょう。その喜びを重度の肢体不自由者に提供してきたのが、テクノツール株式会社(本社:稲城市)。身体の制約を補う動作支援機器や入力デバイス等を開発・輸入・販売して30年余の企業です。「アシスティブ・テクノロジー(AT)」と総称されるそれらのキカイ(機械)は、障害者自らが可能性を拡張するキカイ(機会)を生み出してきました。
その光景は誰の心にも響くものですが、響くだけでは花火のように消えていきます。福祉や弱者支援の世界観を決めつけられていた世の中を、変えたい。そう願い二代目社長として試行錯誤を厭わない島田真太郎社長に、いまを聞きました。
アシスティブ・テクノロジーの現在地
― 顧客が限られた市場で、かつ「重度肢体不自由」の中でも疾患・症状により動かせる部位や可動域が違い、また進行性の難病もあります。その中でどのような製品を扱われているのでしょうか。

島田 代表的なものとして、上肢の筋力低下や運動麻痺のある人の日常生活を支えるアームサポート「MOMO(モモ)」(写真下)や、スマートフォンなどの機器操作をしやすくする固定具、コントローラーやスイッチなどの入力デバイスがあります。ただし製品が届けば解決するのでなく、食事・遊び・デスクワークなどその人がやりたいことに合わせて機器を揃え、組み合わせ、操作しやすい位置に適合させることが必要です。

― 最近はゲームやeスポーツで障害者が参加しやすい工夫が見られます。テクノツールが監修し、株式会社ホリが設計・開発した「Flex Controller(フレックス・コントローラー)」は、代表作のひとつですね。こちらは一般ユーザーも使えるのでしょうか。
島田 基本的には、一般的な形状のコントローラーが使用できない方々のために開発したので、まずなによりも当事者の方に使っていただきたい気持ちがあります。それでも注目されるのはありがたいです。ただ、報道で取り上げられるのは「障害者もゲームができた」という表層だけ。そこに至る社会の障壁や、ゲームができることでどんな可能性を秘めるか、何より「障害者」という括りでなく1人の個性が開放されていくことにニュース価値があるはずです。Flex Controllerが世に出て5年が経ちますが、通り一遍の伝え方しかされないことにもどかしさと無力さを感じています。

Flex Controllerを基点に使いやすいスイッチを組み合わせ
福祉が「個性」の発揮に追いつかない
― 社会の障壁と言うと、例えば費用面でしょうか。
島田 市場が小さく、ニーズが細分化され、かつ個別性が高いですから、コントローラーやスイッチに限らず総じて小ロット生産で製造原価がかかります。一方、福祉用具制度の適用を受けるには、価格設定で制約が生じることも。福祉の世界では営利活動に対する根強い拒否感があり、制度を無視した価格設定で購入してもらうことは難しいです。そして障壁は費用だけでなく、就労や余暇のレベルを上げることに、福祉が追いついていない現実にあります。それらは世の中に伝わらず、問題視されません。
― 疾患・症状の不自由を解消しようと様々なテクノロジーが取り入れられる中で、お世話的な福祉の定義に制度が縛られてアップデートできていないようですね。他に、そう感じることはありますか。
島田 当事者の「したい」を実現するために行う、機器の「適合」(フィッティング)です。ピアノで言えば調律師だし、介護で言えばケアプランを立てて実行するケアマネージャーとヘルパーの両方を兼ねているようなもの。機器の導入前から1案件に対する調整や合意形成コスト(費用・時間)がかかり、また適合段階ではその人の生活環境に赴いて、細かな位置どりもします。こうした専門性や過程に価値があるはずなのに、医療・福祉制度の報酬体系には組み込まれていません。一部の作業療法士さんらの善意で成り立っています。

ハンドルを握れなくてもできるeモータースポーツ体験は、 技術の進歩で「遠隔運転」という未来の選択肢につながりうる
ヒントは障害者「雇用」でなく「就労」
― テクノツールではウェビナーを開催されています。先日eスポーツ支援の講習でご一緒した作業療法士さんも「無料で理解が深められ、ありがたい」と言われていました。noteの執筆も含めて、伝わらないことを発信しようと苦心されていますね。
島田 当事者とご家族、ヘルパーなど支援者や特別支援学校の先生、作業療法士など、いずれの方々も「ここなら大勢に伝達できる」場がなかなかありません。理念に掲げる「本当の可能性にアクセスする」仲間を増やすには、赤裸々な実例から共感を広げていくしかなく。
テクノツールには「障害者雇用」という概念がありません。それ以前に、当事者が役割を持って働く文化があります。今も3人の重度肢体不自由者がプログラマーや広報として個性を発揮し、また2023年12月にテレワーク型B型就労支援施設「テクノベース」を開設しました。そうした就労の現場のリアルこそ、我々にしか語れない価値だと思っています。

ウェビナーの開催事例
― ウェビナーでは「障害者雇用という言葉の使われ方は、雇う企業側の論理しか存在しないように感じる。だから定量的な話(雇用率)だけが一方通行に」と言われていました。同感です。だからこそ「就労」という当事者側に立った話には、福祉の世界にいない私も引きつけられます。ウェビナーからのこぼれ話はありますか。
島田 プログラマーの本間は、脳性麻痺による不随意運動や構音障害があります。彼が学生時代を過ごした頃は、障害者に対する理解があまりにも遅れていたので、本人の希望や適正に応じた教育が受けられませんでした。しかし彼は独学でプログラミングを学び、Flex Controllerなどのソフトウェア開発で自身の想いを貫徹するだけでなく、今は働きながら通信制大学で学んでいます。職人気質の一方で、発話が不自由なため人前に出たり発信することにためらいがありました。でも、脊髄性筋萎縮症(SMA)でありながら上京して一人暮らしをし、自らの体験を伝えていく広報の干場の姿に感化されて出演しています。
また、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの白井は、テクノベースに入社した後、テクノツールの社員になりました。MOMOの営業サポートでは活用事例の紹介を積極的に行ってくれています。3人とも「障害者である自分だからできること」を考え、行動し、自分と同じ境遇の人たちにシェアすることから、さらなる活力に変えているようです。
― 先ほどの「福祉が追いついていない」との話で、当事者が働ける環境には何が足りないでしょうか。
島田 自宅でテレワークをするにも、重度訪問介護制度は「就労」を想定していません。つまり、適用外。また、厚生労働省が策定し「高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)」が運営、市区町村が実施主体となる「重度障害者等就労支援特別事業」を導入していない自治体もあります。特別支援学校の生徒が社会とつながる前に卒業すると、自宅での家族支援や生活介護事業所の利用しかその後の選択肢が見えなくなり、「働けない」と決めつけてしまう人もいるでしょう。働くことや、何かを上達したいと思うことは、誰にとっても特別特例ではないはずです。
福祉の外へ

― 聞けば聞くほど、もどかしくなります。
島田 だから、テクノツールは福祉の外へ出ます。協業先も、お届け先も、福祉の外側にいる人たちに向けた新たな事業を開発中です。
― 確かに、何かしら不自由さがある方のために生み出した商品・サービスが、誰に対しても使いやすかった、という例は多々あります。アシスティブ・テクノロジーも福祉に閉じたものではなく、重度肢体不自由者の可能性にアクセスすることが、ビジネスに新たな発想になる、と。言える範囲で、どんなことを仕掛けていきますか。
島田 ひとつ挙げると、研修です。「超マイノリティ」である重度肢体不自由者から見えているもの、感じていることには、健常者優位の社会が見落としている可能性のタネがあるはず。そのような視点を、企業のプロダクト・サービス開発や顧客体験設計、ブランディングなどのプロセスに持ち込むためのプロジェクトを、協力会社と進めています。
― いわゆる合理的配慮やユニバーサルマナーということでなく、もっと奥深いところから吸収してもらう、ということですね。
島田 健常者優位の社会において、健常者の尺度で評価される障害者だけを受け入れることは、包摂とは真逆だと思うんです。だから、尺度が変わるセオリーオブチェンジを起こそうと。
マイノリティの選択肢が増えると、マジョリティの自由も拡張されます。ひとりの可能性が、みんなの可能性になり、社会の可能性を拡げる。そんなゴールを目指す企業になろうと、初の全社会議を春に行いました(写真下)。また、僕とはタイプが異なる人材を右腕として迎え入れ、自分に足りない視点からのアプローチも社内に生まれています。

テクノツール、テクノベース社員やプロボノらが一堂に会した「みんなで つくってくの会議」
― オープンイノベーションによる変革を期待したいです。最後に改めて、経営における島田社長の「逆算」「引き算」を聞かせてください。
島田 「最初の一人」になることでしょうか。未来の世代が「この社会で生きるのが楽しみだ」と思えるような環境を残すために事業に取り組むよう、「よき祖先であれ」と全社会議で行動指針のひとつに定めました。
― 手応えは?
島田 「伸びしろ」では終わらせませんよ(笑)
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[企業情報] テクノツール株式会社 |
(余録)
文中に登場する広報の干場さんは、音楽や映画が好きで自らフェスにも行きます。体験と行動力が相まって、その発信が当事者にこそ伝わる強みをお持ちです。一方で、人それぞれ得手不得手はつきもので、受信(インプット)した情報を咀嚼して、まとめたり取捨選択することは苦手に見えます。
私はこの原稿を、これまでの島田さんとの対話やウェビナーで綴ったメモと記憶を一度別紙に紡ぎ直して、書いています。他方、SMAで動かせる指も限られて、ペンを持ってメモが取れない干場さんは、インプットから文章や映像に仕上げるプロセスが違うはず。付箋に書き出した発想やToDoなどを共通項で分類したりタスク管理するような手法を一度忘れて、全員が干場さんの「環世界」で形成されたプロセスでしか思考や執筆ができないとしたら、彼の苦手は、健常者優位の条件下でしかないのかも。
“ホッシー”、応援しています!(倉内佳郎)





