#20  株式会社アメディア  代表取締役社長 望月 優さん

 株式会社アメディアは、「情報とテクノロジーで障害者の自立支援!」を経営理念とし、1989年の創業以来、主として視覚障害者向け支援商品の開発・販売を続けられています。創業者で現在も社長として会社を率いておられる望月 優さんご自身が全盲であり、社員にも視覚障害等をお持ちの方がいらっしゃいます。
 同じように障害を持つ顧客のニーズに寄り添った商品を世界中から集め、存在しないものは自社開発を行い、これまで多くの商品を世に送り出してこられました。平成25年度のバリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者として内閣府特命担当大臣表彰優良賞を受賞されるなど、その功績は高く評価されています。
 都内の閑静な住宅街にある事務所に、望月社長を訪ねてお話を伺いました。

ただ障害者支援がしたかった

――望月社長は、大学卒業後、高校の英語教師をされている時にコンピュータの可能性を感じ、1987年に視覚障害者向けのパソコン関連システム販売を個人で始められましたね。その当時から、現在のアメディアを立ち上げたいという考えをお持ちだったのでしょうか。

望月 いいえ。元々、障害者の不自由を解消する仕事をしたかっただけで、自分で会社を経営したいという思いはありませんでした。教師を辞め1年間プログラミングを学んだ後、視覚障害者にパソコンを導入する仕事を一人で行っていましたが、その後、全盲の女性を社員として雇用するためアメディアを創業することになりました。

望月 優さん

――それからは点字プリンタの輸入販売など業務を広げ、1996年に日本初の印刷物音訳ソフトである「ヨメール」を開発・販売されたことで売上が大きく伸びましたね。本ソフトでは1997年度の日経優秀サービス賞も受賞されています。そして2003年には主力商品となる音声読書機「よむべえ」を発売され、創立20周年を迎えられた2009年には過去最高の業績を上げられました。

望月 そうなのですが、その過程では累積赤字が拡大して赤字体質化が進み、退職者も増え、経営状態が非常に悪化した時期でもありました。そこで2001年頃から赤字体質脱却に向けて経費削減に取り組むなど改善を進めた結果、なんとか利益面でも持ち直すことができました。

――決して順風満帆ではなかったということですね。2013年には補聴器販売資格を取得され、北京に支社を設立されるなど、聴覚障害者やシニア向け、海外向けの事業展開も進めようとされていたようですが、その後の状況を教えてください。

望月 残念ながら芳しい結果は出ていません。
 マーケット規模としては聴覚障害者やシニアの方が視覚障害者に比べてずっと大きいので、更なる売上拡大を狙っていました。しかし、競合も多く、その分野では特に強みを持たない当社が食い込むことはできませんでした。海外の方も、北京支社はまだ存続していますが、販売拠点としては殆ど機能できていないのが実情です。
 それだけでなく、実は2015年頃から、主力商品である「よむべえ」の売上も徐々に下がってきて、近年はコロナ影響も重なり、かつてピーク時に3億円以上あった売上が2億円余りまで落ち込んでいます。その中で赤字も続き前期は債務超過にも陥ってしまい、経営はまた厳しい局面を迎えています。

経営者として新たな難局に立ち向かう

――競合の台頭など環境変化もあったのかと思いますが、主力商品の売上減は厳しいですね。

望月 大きな変化としては、デジタル化の進展があります。世の中全体として、紙の印刷物の減少に伴い、読み取りニーズも減ってきています。販売台数としては、ピーク時の月間100台という水準から月間20台ほどにまで落ち込んでいます。
 ただ、そうした外部環境の変化もある一方で、従来の製品では読み取り精度が必ずしも十分とは言えず、それに対する不満の声もあり、売上が伸び悩む一因となっていた面もあります。

主力商品の音声読書機「よむべえ」シリーズ。上が読み取りの速い「快速よむべえ」、下が手書き・点字・通帳にも対応した「よむべえスマイル」。快速よむべえは他にもモニター付きなど複数モデルが販売されている。(同社ホームページの商品一覧より)

――この難局をどのように乗り越えようとされていますでしょうか。

望月 やはり、自分たちの身の丈に合った得意領域で勝負をするべきだと、今では考えています。そこで方針としては、視覚障害者支援に特化した事業に注力して活路を見出していこうとしています。
 視覚障害者が抱える大きな不自由として、読み書きの不自由と移動の不自由があります。「よむべえ」などは前者に対応した商品ですが、これからは後者に対応した「ナビレク・バリアフリーマップ」というものを新たな事業の柱として伸ばしていこうとしています。これは「バリアフリーマップ」という経路説明が付加された地図を基に、「ナビレク」というアプリを使って音声や振動により道案内をする仕組みです。
 まだ事業としてキャッシュポイントを獲得するところまでは至っていませんが、社会的ニーズは確実にあり、成長のトリガーになり得ると捉えています。時間はかかると思いますが、いま力を入れているところです。

――どのような収益化をお考えですか。

望月 ナビレクは単なるナビゲーションアプリと思われたりしますが、あくまで主となるのはバリアフリーマップの方で、ナビレクはそれを使うためのサンプルアプリという位置づけです。
 バリアフリーマップは、ある地点から目的地までの経路に対し、歩いていく上で役に立つ説明が付加された地図であり、その地図自体に価値があります。ボランティアの協力も得ながら作成が進んでおり、現在までに4千以上の地図が作られています。
 今後、他に使い勝手の優れたアプリが出てくればそちらを使ってもらえばよく、バリアフリーマップの利用に課金をすることで収益化を図っていきたいと考えています。

ナビレク・バリアフリーマップのリーフレットより

――なるほど。ただ、新たな事業を育てるためにも、既存商品の売上を何とかしたいところです。

望月 そちらは厳しい状況ですが、明るい兆しも見えてきています。
 2021年に「よむべえ」に搭載する文字認識エンジンとしてGoogle Cloud Platform(GCP)を採用したのですが、その結果、読み取り精度が飛躍的に向上しました。これなら、精度不足で敬遠されていた潜在的な顧客層にも改めて訴求できると期待しているところです。
 視覚障害者向けの操作性やユーザーインターフェイスの部分では優位性があると自負していますので、新たな顧客獲得等により、できるだけ早期に業績を回復したいと考えています。

経営の学びと「心の状態7:3の法則」

――望月社長は、2002年に中小企業家同友会(以下、同友会)に入会され、現在では理事・豊島支部長という要職にも就かれています。入会当時は、ちょうど経営状態が悪化していた時期ということで、経営について学ぶために入会されたのかと思いますが。

望月 実はそういうわけではなく、最初の関わりは、同友会の障害者問題委員会というところから勉強会の講師を依頼されたことです。それまでどういう団体かということすら知りませんでした。
 ただ、それをきっかけに、同友会の様々な勉強会やセミナーに参加して経営について学んでいくことになり、そこで得た知見を当社の経営にも活かすことができました。
 同友会以外でも経営の勉強はしましたが、そうした学びがなければ、当社はここまで続けてこられなかったと思います。

――具体的な取り組みについて教えてください。

望月 まず初めに取り組んだのが財務管理です。あるセミナーで一泊研修があり、そこで赤字体質脱却のためには財務管理が重要だということを痛感しました。月次で棚卸を行い、月次試算表や変動損益計算書を作成し、計画に基づく管理を行うようになりました。その結果、経費削減など改善が進み、いまでも同様の管理は続けています。
 他には、社員とのコミュニケーションや人事評価のやり方も見直しました。社員とは明るく笑顔で言葉を交わし、面談では良いところに着目して褒めることを心掛けるようにしました。
 私は、継続的な成長には「心の状態7:3の法則」が重要だと考えています。自己肯定度が高過ぎず低過ぎない70%の状態を保つことで、心のエネルギーやモチベーションが高まり、生産性が上がると感じています。成長度合いに応じて自己肯定感は上下しますが、各人が自分の心のバランスを7:3に保てるよう周囲から働きかけることが大切です。

実現したいのは「障害者がいない世界」

――いま注力されているナビレク・バリアフリーマップですが、昨年新たに事業所を設けて実施されていますね。そちらは「ソーシャルファーム」と呼ばれる、就労困難者に対し共に働ける場を提供する社会的企業としての認定を東京都から受けて設立され、社員も雇用されています。それはどのようなお考えからなのでしょうか。

望月 私は、ソーシャルファームで言われている「就労困難者」という表現が一つのレッテルとなり、当人たちの自信を失わせることになっていないかと考えています。障害者もそうですが、自分のことを“できない人間”と思い込むことで、能力が発揮できなくなってしまう。ささやかながら、そうした状況を変えていきたいという思いから始めました。
 そのことにも通じますが、私が最終的に目指したいのは「この世界から障害者をなくす」ことです。
 障害者をなくすといっても、物理的な障害そのものをなくすということではなく、たとえ障害があっても障害と感じなくて済む、自分が障害者と思わずに生きられる状態のことを言っています。社会の発展や技術の進歩により物理的な不自由は解消されていくはずなので、あと残るのは自分が障害者だという思い込みです。
 そのような思い込みを払拭し、全ての人が自信を持って、自らの個性や能力を存分に発揮できれば、社会全体の活力が高まっていくはずです。
 ただ、そうした世界が本当に実現できるまでには千年を要すると考えています。会社はあくまでその実現のための一手段ですが、その夢を託せるのは、やはりアメディアだと思っています。

――千年というのはちょっと気が遠くなるスパンですが、夢の実現に向けて御社の更なる発展を祈念しています。本日はありがとうございました。

事務所から程近い教会の建物内の一室を借り事業所として利用

※ 取材内容は2023年7月現在

【企業情報】

株式会社アメディア 
 所在地:〒176-0011 東京都練馬区豊玉上1-15-6 第10秋山ビル1階
 ウェブサイト:http://www.amedia.co.jp/

(余録)
 「これまで無理して頑張り過ぎたかもしれない…」と、インタビューの途中で漏らされた言葉が心に残りました。元々なりたかったわけではない経営者として、長年にわたり多くの苦難を乗り越えてこられたからこそ出た本音だと思いますが、同時に「気持ちは今でも至って前向き」とも。
 千年先と言われる目指す世界の実現に向けて、苦しい状況でも希望を失うことなく前進し続ける姿に触れ、望月社長の柔和な笑顔の裏にある、決してぶれることのない志の高さを感じました。(倉田 雅光)

PDF版はこちら