#11  合同会社流動商店  代表社員 豊田 健 さん

 合同会社流動商店は、事業デザイナーと都市デザイナー、建築家の3人がタッグを組んで作った「お店をつくるなんでもやさん」だという。平たく言えば建設業と飲食店、イベント等の企画を営む企業である。しかしその活動の実態は、そんな簡単な言葉では表現しきれないほど柔軟で枠に収まらないものだ。物理的な空間づくりと同時並行で、人と人のつながりといった目に見えない空間も作ってしまう。事業の内容や形態も、やりたいこと・実現したい理想に向かって変化し続けている。そんな彼らの頭の中にあるものは何か、代表の豊田氏にお話を伺った。

代表の豊田さん

豊田氏は大手商社勤務を経て地方創生の仕事に転職、その後事業デザインに転じた。 料理人でもあり、演奏家でもある多才な人だ。

やりたいことに導かれてきた現在地

- 流動商店設立の背景をお聞かせください。

豊田 実は、最初は明確な思いがあって会社を作ったわけではないんですよ。私は建築の専門家ではありませんでしたしね。

― ではどういう経緯だったのですか。

豊田 前職で地域創生の仕事に携わっていた時に、いろんな工務店さんと組んで仕事させてもらった時期があったんです。空間作りへの興味が深まるにつれ、毎回違う工務店さんと組むよりも空間設計業務を内製化したいと望むようになりました。そんな時に偶然出会った都市デザイナーと意気投合し、一緒に始めたのが今の会社というわけです。  

― その都市デザイナーというのが現在の役員のひとり、三文字さんのことですね。一緒に会社を作ってしまうほど共感する何かがあったのですか。

豊田 彼は大学で都市工学を学んでおり、都市へのアプローチという視点を持っていました。その彼と話すうちに、私と同じところに関心があることがわかり、まちを面白くする活動がしたい、そしてまちを面白くするためには人とお金の流動性を高めることが必要だといった点で同じ考えを持つようになりました。  

― そこへ建築の専門家、中山さんが加わって今の流動商店となった。

豊田 そうです。ですからここまでは、世の中のニーズに合った形でやりたいことをやっていたら流れで今のスタイルに辿り着いたみたいな感じです。  

流動的なものへの対応に強み

― これまで、様々なまちづくりや空間づくり、飲食店のメニューの開発、イベント企画をなど手掛けていますが、何かをデザインする時に念頭に置いていることは何ですか。

豊田 最も考慮しているのは、その空間の流動性や可変性ですかね。  

― どういうことですか。

豊田 当社に依頼をいただくお客様は、どちらかというと計画がきちんと決まっていない人のほうが多い。こんな感じのことをやりたいけど具体的には決まっていない、みたいな。
そういった人に対して、こちらが柔軟性のある提案をすることで、その人が最初の一歩を踏み出すハードルを下げてあげることができると考えています。 

流動商店の外観

流動商店があるのは谷根千や本郷にも近い文京区のまちの一角。 このまちを流動化する商店のひとつとなっている。

― 柔軟性のある提案とは、具体的にはどんな?

豊田 例えば、今はいない登場人物が出てくることを想定した提案です。ある設備を、その時点でこれはこういうふうに使うと決めてかかると、新たな登場人物が出てきて違う状況になった時に応用が効かなくなってしまいます。だから空間も設備も融通が効く設計を考えて提案することを重視しています。  

― その空間に将来関わるかもしれない未知の人のことまで考えているということですか。

豊田 はい。だから、その空間ができた後に関係者となるであろう人たちに、敢えて内装作業を手伝ってもらうこともあります。最近企画した例では、地域のコミュニテイハウスの施工中に、近隣の住民に呼びかけて壁塗り体験や家具を作ったりするワークショップを開催しました。大人も子供も交えて。
そうすると、作業を通じてその空間をよく理解でき、愛着が湧き、場が完成する頃にはもうみんなが仲間になっている。そうすると、完成した後のスタートダッシュが全然違うんですよ。実際、そのコミュニティハウスはオープニングの日にはもうすっかり地域に溶け込んでいましたよ。 

― なるほど。そういった対応が可能なことは貴社の強みといえますね。

豊田 それと、お店を作る時の失敗でよくあるのが、運営者と設計者の思いのすれ違いです。設計者が良かれと思ったデザインが使いにくかったということは往々にしてありますが、それは一つの視点でしかものを見ていないことに起因するケースが多い。私たちは、専門分野の違う3人がチームを組んで3つの視点でアプローチすることで、そういった齟齬を減らすことができていると思います。  

最も公共性が高いのは商店である説

― 貴社の目指すものとして、「商店で都市を流動化する」ということを掲げていますが、なぜ「商店」なんでしょうか。

豊田 それは、まちの中で最も公共性の高い空間が「商店」であると考えているからです。
例えば地域の居酒屋さんには、そこにその土地の人、風土、食べものなどのいろんな情報が集まっていて、かつ誰に対しても平等です。会員制のお店なんかは別として。たいていの商店は地域に初めてきた人が入り込めるようにする機能を持っている。だから商店を通してまちにアプローチしようと。こういう考えです。 

― 貴社が営業するレストラン「流動商店.tokyo」は、その考えを具現化するものなんでしょうか。

豊田 それもありますね。この界隈はかつてある企業の施設があってとても賑わっていたのですが、その撤退により人口動態が変わり商店の数が減ってしまったんだそうです。流動商店もそのまちを流動化する商店のひとつでありたいと思っています  

飲食店経営に価値創造の種をまく

― 最近新しい事業をスタートされたと聞きました。

豊田 はい、新たに食品製造を始めました。オリジナルメニューをレトルトにして販売します。  

― 随分大きく転換しましたね。

豊田 いえ、そうでもありません。商店でまちを流動化するというコンセプトの延長線上にある事業です。これは商店を作るハードルを下げる目的を持った取り 組みなんです。レトルトの料理を提供することでお店を作るハードルが下がるならそれもありじゃないでしょうか。  

新事業で手がけるレトルトパウチ製品

新事業で手がけるレトルトパウチ製品。 商店をスタートする人のハードルを下げたいという想いから。(写真は同社ホームページより)

― ひとつのモデルを示してみるということでしょうか。

豊田 そうです。モデルといえば、近々流動商店のオフィスとレストランを同じフロアに統合して、昼間はオフィス、夜はレストランとして使えるようにし、これを空間の四次元的有効活用モデルとして展開できないかなと考えています。会社にとっては、コストであるオフィスから夜間にプロフィットを生み出すことができ、他方、飲食店にとっては夜間だけその場所を使用することで昼間の店舗にかかるコストの重荷を減らせます。別の観点で見れば、会社にとっては地域住民との新しいタッチポイントができるため、このことから何か新しい価値が生まれる可能性もあります。  

― そうですね。期待しています。本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。

流動商店の内部

レストラン流動商店.tokyoの奥は昼間はオフィスとして使われていた。 夜はレストランの一部になり、空間を有効活用できるという。

※ 取材内容は2022年8月現在

【企業情報] 合同会社流動商店

https://ryudoshoten.tokyo

〒113-0023東京文京区向丘二丁目34番3号 

事業内容
1. 空間を一緒につくる(建築・都市空間の設計・施工事業)
2. 地域の未来をつくる(地域・行政計画の策定検討事業)
3. 場を運営する仕組みをつくる(商店運営・指定管理業務・運営スキーム検討事業)
4. 美味しいものをつくる(飲食店運営・飲食店コンサルティング事業)
5. おまつりを一緒につくる(イベント企画・運営・プロデュース・空間設営事業)  

 

(余録)
 企業ドメイン(事業領域)の決め方はその後の事業展開に多大な影響を与える。合同会社流動商店はそれを「建物を作ること」と定義せずに「お店をつくるなんでもやさん」としたことで、事業展開の余白を多く取ると共に、自分たちがどのような理念に基づいて、どのような強みを活かし、どのような方向に向かおうとしているのかを社内外に知らしめることに成功していると思う。 未来にはこうなりたいという将来像。そこから逆算した現在地。短いフレーズの中に様々な要素が詰まった巧みな表し方だと感じた。(五百田誉子)

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