#26  株式会社有名餃子  代表取締役社長 平田 幹裕 さん

餃子の製造販売会社を経営する側ら、ものまね芸人としても活躍しているという社長の平田幹裕氏。お会いするなり「私はニセモノ(ものまね芸人なので)。餃子は本物。」と始まり、餃子へのこだわりと背後にある様々な出会いや体験を熱く語って下さいました。出汁好きの青年が挫折を味わいながら自分のやるべきことを見つけ現在の事業にたどり着くまでのお話は、ひとつのエンターテイメントショーのようにも感じられました。「餃子でみんなを笑顔にしたい」という経営理念を掲げて起業し、事業として安定させるべく奮闘している平田社長のお話は、もしかしたら経営者の皆様にも創業時の想いを思い起こさせ、振り返る機会となるかもしれません。

餃子に救われたミュージシャン

-「出汁入りジューシー、こだわりの国産素材、添加物不使用」という特徴で人気の貴社の餃子ですが、出汁を練り込んだ餃子というのは珍しいのではありませんか?

平田 昔から出汁が好きだったんです。学生の頃アルバイトをしていた中華料理屋さんで出汁の味を教わって、それ以来、出汁の魅力にすっかり取りつかれてしまいました。そのお店のラーメンは出汁が効いていてとても美味しかったので、餃子も同じくらい美味しくしたいと考えて、餃子に出汁を入れることを思いつきました。「出汁がしっかりきいたタレの要らない餃子」のコンセプトはこの時に生まれたものなんです。

-それを商品化したのですね?

平田 はい。でも実際に商品化したのはもっと後になってからです。芸大を卒業してからはミュージシャンとして活動していましたので。当時珍しい子供向けのバンドを結成し、全国の幼稚園からひっぱりだこになるほどの人気だったんですよ。ライブハウスは親子連れでいっぱいになり、子供たちの笑顔であふれていたのが今でも忘れられないです。ところが、その活動が話題になりある音楽事務所からデビュー目前という時に突然、事務所の社長が多額の債務を残して他界。事務所も崩壊しバンドも解散せざるを得なくなってしまいました。

-さぞ気落ちされたことでしょう。

平田 気落ちなんてものではありません。デビューできなかったことを他人のせいにして、自暴自棄になり鬱状態にまでなりました。でも、そんな中でもずっと続けていたのが、大好きな餃子作りでした。そうして毎日餃子を作って過ごしているうちに、なぜかある時ふっと全てを受け容れる気持ちになれたんです。「起きていること全てが自分の人生なんだ」と。

-続けていた餃子作りが再起のきっかけになったということですか。

平田 本当に、餃子に人生を救われたと思いました。その時、自分をどん底から救ってくれた餃子に人生を捧げようと決めたんです。

ライブハウスが子供たちでいっぱいになっていたミュージシャン時代。子供の輝く笑顔が今でも平田氏の原動力になっている。

求められる二刀流の視点

-餃子専門店を開店するにあたり、最もこだわったのは何ですか?

平田 化学調味料などの添加物を使用しないことと、美味しさです。現代社会には添加物があふれています。人は化学調味料によって作り出された味覚に慣れてしまっていて、無添加の食品は味気なく、物足りなく感じてしまいがちです。なので、天然の旨みだけでガツンとした味を出すために研究を重ねました。最初のうちはニンニクでガツンといわせていたのですが、最終的にニンニクを使わなくてもパンチがあって美味しい出汁入りの餃子を提供できるようになりました。

-化学調味料を使わず、天然の素材だけで美味しさを出す秘訣は?

平田 丸2日かけて作る秘伝の出汁にあります。国産の大山鶏やカツオや昆布などの旨味を凝縮したその出汁を餃子の餡に練り込みます。肉と野菜は国産の材料にこだわり、化学調味料や保存料は一切使用していません。ラードも不使用です。

-ジャパン・フード・セレクションの金賞も受賞されました。この賞は味だけでなく素材や安全性も重視されるそうですね。そこまで無添加であることや材料にこだわるのはなぜですか?

平田 喜んでくれる人がいるからですよ。美味しいものを食べたくてもアレルギーで食べられない人や、昔ライブに来てくれたような子供たちに安心して美味しい餃子を食べてもらいたい。それが原動力になっています。

-ところで、ここまで手間ひまをかけて作っていて、採算は取れるんでしょうか。

平田 そこが問題なんです。製造原価がかさみ高価な商品になってしまったせいで実は一時期売上が落ち込んでしまいました。そこで、お客様にもっと気軽に楽しんでもらえるよう、研究を重ね試行錯誤を経て、製造工程を改善し価格を抑えることに成功しました。同時に、材料にこだわり抜いた新商品を開発し、こちらは高付加価値商品として販売することにしました。

-お求めやすい価格の売れ筋商品とこだわり食材を使った高級な商品という複数の商品アイテムを設けることで、収益を確保して経営を安定させつつ、こだわりを追求し続けられる仕組みを築いたわけですね。

新商品の「古代小麦餃子」。高ミネラルで栄養価が高く、低グルテンでアレルギーのある方にも安心。美味しさにもこだわった。

フードロス削減でつながる仲間

-社長は今年、店舗運営からは退き、餃子の製造販売に専念する決断をされたそうですね。

平田 はい。新宿のお店は知人にゆだねました。餃子のEC販売は前から行っていたのですが、卸売やOEMに挑戦しています。ご当地餃子のようなオリジナルの企画も行っていて、結構人気があるんですよ。

-業態変更を行ったのにはどのような背景があるのですか?

平田 食材にもっとこだわりたいという思いが大きくなったからです。それと、このほうがより多くの人に安心安全な餃子を食べてもらえることに気づいたというのもありますね。

-食材へのさらなるこだわりとはどんな?

平田 安全であることのほかに、最近はフードロスにも関心を持っています。食材の仕入れ先を探していると多くの生産者の方と関わる機会があるのですが、その中でも、葉ニンニクなど流通に乗りにくく廃棄されがちな食材の活用に取り組む生産者さんとのお付き合いが増えています。

ところで、ジャージー牛という品種の牛を知っていますか?ジャージー牛から取れる牛乳は味が濃くとても美味しいのですが、日本の農場ではミルクの出ない雄牛が生まれると、ほとんどの場合すぐに殺処分されてしまうのだそうです。

-知りませんでした。雄のジャージー牛の肉は美味しくないということなんでしょうか?

平田 いいえ、そんなことはありません。十分に美味しいのです。ただ、脂身のつき方などの特徴から日本では霜降りの和牛より価値が低くなってしまい、育てても商売にならないからということのようです。私が出会った八王子の牧場、磯沼ミルクファームでは、そのジャージー牛の雄を殺処分せずに育てています。もともと、アニマルウェルフェア(家畜福祉)の考え方で牛たちを命あるものとして尊重し、ストレスなく育てる取り組みをしている農場なのですが、牧場主の磯沼さんの考え方には共感するところが多く、そういったところと取引をすることでフードロスを減らし、世の中に貢献できればと思っています。

八王子にある磯沼ミルクファーム。循環型農業やアニマルウェルフェアに取り組み、豊かな未来の創造を目指している。

子供たちの弾ける笑顔を見たくて

-貴社の商品に、低糖質の餃子「ファイバーリッチ」という商品がありますね。

平田 これは糖尿病を患う友人のひと言がきっかけとなって開発した商品です。「自分は糖尿病だから君の作った餃子を食べたいけど食べられないんだ」。餃子の皮に含まれる糖質が一番のネックになると知り、色々と調べていた時、同じ想いで餃子の皮を作っている工場の社長さんに出会うことができました。その社長さんの作る全粒粉を使った皮に、食物繊維が豊富なポルチーニ茸を使用して、糖質の吸収をゆるやかにする低糖質の餃子ができたのです。もちろん、味にもこだわりました。

-ご友人も喜んでくれたことでしょう。

平田 ええ。商品化して販売したところ、糖質制限を余儀なくされている方々から、美味しい餃子が食べられてうれしいという声が届き、私もうれしかったです。ほかにも、肉が食べられないという人のために、肉を使わない餃子を作ったこともありますよ。

-人を喜ばせたいと思うと頑張ってしまう性格なんですね(笑)。

平田 そうかもしれません。こうして振り返ると、結局、私は「人を笑顔にしたい」という想いに動かされているのかなと思います。その原点はバンドをやっていた頃に見た子供たちの弾ける笑顔にあるように思います。餃子で人を、特に子供たちを笑顔にするには、美味しいだけではなく安心して食べられるものでなければならない。それが安心安全へのこだわりとなっているんです。多くの人に安心して美味しいものを食べて幸せになってもらって、世界を平和にする。それが私の今の夢です。

-大きな夢ですね。想いが叶うよう、ご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。

※ 取材内容は2023年10月時点のものです。

株式会社有名餃子 概要 

事業内容:餃子の製造・販売 芸能事業 

所在地:〒160-0022 新宿区新宿5-2-10

従業員数:6名

ウェブサイト:https://youmaygyoza.com/

 

(余録)この日のインタビューが終わってすぐ、食べてみたくてたまらなくなり、主力商品の「シンデレラ餃子」をお取り寄せしてみました。パッケージを開けると焼き方の詳しい説明書やちょっとクスッとしてしまうメッセージが入っていたりしてホスピタリティが感じられ、早速笑顔にさせられていました。 せっかく理想を掲げて起業しても経営基盤がしっかりしていないと立ちゆかなくなるケースは多くあります。管理面で適切な判断をしながら二刀流の経営で道を切り拓き、良いものを作り続けていただきたいと思いました。(五百田誉子)

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