#03 株式会社CBA 代表取締役 小出 千湖さん
株式会社CBAは、チコバレエアカデミー(バレエ教室)とアロマヨガ桜スタジオ(ヨガスタジオ)、そしてコロナ禍に立ち上げ1年が過ぎたチェリーヨガフィットネス(オンラインヨガスタジオ)の経営母体である。数名の個人レッスンからスタートしたバレエ教室は、経験豊富で優秀な講師陣と150名以上の生徒数を擁するまでとなり、新たな事業を次々と手がけ順調に事業を拡大してきたように見える。それは「逆算」した経営の成果だったのか。創立から15周年という節目を迎えた同社の代表取締役 小出千湖さんにお話を聞いた。
礼に始まり礼に終わるバレエ
-スタジオの入り口に「礼」という額が掛けられていました。私にとってのバレエのイメージと違い驚きましたが、これにはどんな意味が込められているのですか?
小出 感謝の心を持って挨拶ができるようになること。それが最も大切なことだと生徒たちみんなに伝えたいのです。極端なことを言うと、バレエが上達することよりもそちらの方がずっと大事だと思っていて、これは私の師事した先生から教えられたことでもあります。
-明確な理念があり素晴らしいです。
小出 それともうひとつ。目標に向かって、自分で考え自分を律し、努力できる人になって欲しい。そう願いながらずっと指導にあたってきました。
何が起きても柔軟に対応することを心がけてきた
-貴社は、バレエ教室の拡大、ヨガスタジオ開設、オンラインヨガ事業への進出とこれまで着実に事業を拡大してきていますが、もともと描いたロードマップがあったのでしょうか?
小出 全くそのようなことはありません。全ては偶然から始まりその時その時に全力で、かつ柔軟に対応してきた結果だと思います。
例えばヨガ事業。最初のバレエのスタジオが手狭になり2校目をオープンすることにしたのですが、増加する経費に対し収入が見合わず苦しい経営となることが予想されました。そこでなんとか収益改善を図れないかと考えたのがヨガ事業だったのです。バレエ教室は、昼間は生徒さんが通えないため夜間に偏った稼働となります。昼間に空きがちなバレエのスタジオを、近隣の主婦層をターゲットとしたヨガ教室として有効利用することで、収益率を上げバレエスタジオを続けていく目処が立ったのです。
-ヨガスタジオ経営は偶然の産物だったわけですね。
小出 オンラインヨガを始めた時も予想外のことが起きました。もともとオンラインヨガはコロナ禍で仕事ができなくなってしまった講師の仕事を確保したくて、ヨガスタジオに通えなくなった生徒さんたちを対象にこじんまりと始めたつもりだったのです。
ところが、蓋を開けてみると紹介でも口コミ経由でもない新規の受講者ばかり。求められているものもリアルの教室とは全然違いました。これまでと勝手が異なる世界に必死に対応する中で、結果、オンラインヨガは新しい顧客層を拡げてくれることとなりました。
-ところで、これまで紆余曲折があった中で一番大きな分岐点といいますか、ここから経営が大きく変わったというような出来事はありますか。
小出 はい。実は創業して6年目くらいに、信頼していた講師のひとりが私の経営方針に反発し何人かの生徒を連れてやめてしまったことがありました。
-それはショックでしたね。何が原因だったのですか?
小出 当時の私は、自分が頑張らねばという思いが強すぎて空回りしていたのかもしれません。知らず知らずのうちに自分のやり方を押し付けてしまっていたのだと思います。優秀な講師に辞められてそのことに気づきました。その後は講師の先生一人ひとりの技術や知識を認め、尊重するようになりましたし、この出来事がきっかけで経営方針も私自身も大きく変わり、成長することができたと感謝しています。
講師がその価値を発揮できる安心感のある職場を作りたい
-今年15周年ということですので、15年後についてお聞きします。15年後にはこのようになりたいという、今後のビジョンはありますか。
小出 これまではとにかく幅を広げてきましたので、今後は奥行きを深めることに軸足を置き、講師の育成と地位の安定に力を注ぎたいと考えています。
講師には、指導の質を上げ、プロとしての自信をしっかりと持てるようになってもらいます。先生が良くなると生徒も良くなります。生徒が成長することで先生はさらにモチベーションが上がってさらに良くなる。その好循環を作りたいのです。みんなと繋がっている安心感と、必要とされている使命感を励みにし、持てる能力を存分に発揮して正当に評価される。講師が生き生きと活躍できるようにすることが今後の私の使命かもしれないと思っています。
-なぜ、そう考えるようになったのですか?
小出 ヨガもバレエも講師の収入は実はとても不安定です。コロナ禍では、収入減により生活基盤が脅かされる危険性もありました。高度な技術を持ちながら、本業だけでは食べていけない。そんな状況から講師を守りたいと思ったのがきっかけです。
また、少し視点が異なりますが、芸術家は提供するものの価値に比べ正当な対価を得られていない現実もあり、微力ながらこの点も支えていければと思います。
-ES(従業員満足度)の向上を重視しているのですね。ES向上は仕事の質の向上につながり、生徒さんへの指導の質が上がれば自然と業績の向上につながります。
小出 そうして、互いの信頼をベースにこのバレエスタジオを100年存続させたい。このところ私の中では、急激な事業拡大よりも、たとえ拡大は緩やかでも長く続いてほしいという思いのほうが強くなってきています。
-そのためにも長期的な成長を見据え、逆算の視点を持って経営にあたっていただきたいと思います。本日はありがとうございました。
(余録)15年前にレンタルスペースで数名の生徒と共にバレエのレッスンを始める以前は、自身も複数の場所で講師として働いていたという。講師たちが抱える悩みはかつての自分と同じ。講師の思いがわかる小出代表らしいビジョンだと思った。
ES向上は多くの企業にとって重要な経営課題のひとつであり、テクニックとして取り組む企業もあるだろう。その点、小出代表の言葉は自身の内側から湧いて出た、真剣に考えたものに思えた。(五百田誉子)
[企業情報] 株式会社CBA東京都世田谷区世田谷2-25-2 ルモンドB1-1 TEL: 03-3429-2626 チコバレエアカデミー チェリーヨガフィットネス |