インバウンドビジネスあれこれ
~明日の日本を支える観光ビジョン~

国際部 野村 純一


1.概要

 日本再興戦略の一環として「観光立国」を進める観点から、2016年3月30日に<明日の日本を支える観光ビジョン>が公表されました。(以下、単にビジョンと記します)
 ここでは、ビジョンの全体を眺めながら特徴的と感じられるいくつかのポイントについて触れてみることとします。

 このビジョンは、2015年11月9日に第1回が開催された「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(以下、構想会議)及びその下部組織である「ワーキンググループ」において議論・検討された上で取り纏められたものです。

 構想会議の議長は安倍晋三内閣総理大臣、副議長は菅 義偉内閣官房長官と石井啓一国土交通大臣、委員には関係省庁の各大臣に加えて民間有識者が7名入っているという構成となっています。また、実質的な議論・検討を行うワーキンググループは、菅官房長官が座長、委員に関係省庁の審議官等に加えて毎回4~5名の民間有識者が入っています。

※資料及び議事要旨はほぼ公表されているので、詳しくは下記 URL を参照ください。
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kanko_vision/

2.エッセンス

 公表されたビジョンから、そのエッセンスを取り出してみると次のようになります。

 まずは、現状認識ですが、最近のインバウンドの盛り上がりを安倍内閣の成果として捉えていて、次のような数値を示しています。


 次に、国際的な比較をする中で、まだまだ世界の観光一流国には追い付いていないとして、
「3つの視点と10の改革」という課題意識を提示しています。


 最後に、観光立国に向けた「新たな目標への挑戦!」として次の数値目標を掲げています。



3.議論と検討の中での特徴的なポイン

1) 政府委員の視点と民間委員の視点の相違

〇政府委員は国際比較やこれまでの取組みについて強調している
 【統計数値・順位比較、交通アクセス、食と文化、地方創成、規制緩和、など】
 ※国際観光収入はG7で最下位(GDP比0.4%)⇔1位フランス(2.3%)
 ※施策「国の施設(皇居・御所、スーパーカミオカンデ、等)の開放」に目新しさ

〇民間委員は独自の観点を持っているからこその取組みや施策を提案している
 【ファムトリップ、MICE、DMO/JNTO、国・地域毎に異なる対応、など】
 ※ターゲットとする観光客に対するマーケティング的取組みが目立つ
 ※民間ならではの切り口(実体験に基づく)と具体的な提案も多く出されている

2) 少子高齢化による国内観光需要の減少とインバウンドの増大

〇20年後に「半減する観光消費額」を埋める⇒「インバウンド消費5倍増」が必要
 ※観光業の衰退を憂える意見、国内観光の再活性化を唱える意見、など
 ※インバウンドの観光が特定地域(ゴールデンルート)に集中する現象への対策
〇「たくさん来てもらう」「何度も来てもらう」「たくさんお金を使ってもらう」発想
 ※デジタルマーケティングの重要性の指摘、来た人に嫌な思いをさせない、など

3) 特定の国・地域からの観光客の視点を考えて誘客する戦略

〇「日本へ行きたくなる理由には、お国柄がある」は同感できる意見
 ※「フィリピンはボルテスファイブ」「台湾は雪」「ロシアはオカルト」など
〇欧州マーケットの開拓
 ※世界各地の観光客に占める日本市場のシェアは「アジア:4.2%」「欧州:0.2%」
〇インドからの誘客
 ※「インド人の視点」「中国やアジア諸国との差」「富裕層、婚礼、研修を狙う」
〇フランス人観光客の訪日促進
 ※「フランス人の視点」「ブランド戦略不足」「旅行業者の重要性」「文化と体験」

4) より実践的に、より本質的に、考察する

〇JR九州の唐池委員の意見は一読に値する
※最近目にしたこと耳にしたこと
※観光について思いめぐらしたこと
※政策にどう反映するか

4.自由な感想

 ☆外国からの観光客が増えていくことは日本と日本人にグローバル化を促す。
 ☆日本と日本人が徐々に外国の文化・風土との付き合い方に慣れる/学ぶことが重要だ。
 ☆将来的には観光から移住・移民へ発展していく、そのときに上手く受容できるか。

以上

(2016年7月)

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