最近のインバウンド対応事例について思うこと

中 村 寛


 いつ頃からかインバウンドという言葉が頻繁に聞かれるようになった。訪日外国人の数も急激に増加している。そのような中、最近のニュースで筆者の目を引いたインバウンド事例について、筆者の所見を交えながら二点ご紹介しよう。

1. コンビニで免税品
 まず一つ目は、コンビニエンスストアで免税品が買えることだ。株式会社セブン‐イレブン・ジャパンは、平成26年10月に消費税の免税品目が全品目に拡大されたことを受け、同年12月から約30店舗で免税サービスを実施していた。更に平成27年7月には対応店舗を約1,000店舗に拡大している。ローソンも対応を始めている。「今更何を言っている」とお叱りの向きもあるだろうが、筆者には認識がなかった。海外でコンビニに立ち寄ることはあるが、免税で買い物ができるとは驚きだ。しかしコンビニに外国人旅行者がどれほど来るのか?
 次の表を見て頂こう。なんと訪日外国人全体の52.8%がコンビニエンスストアで買い物をしており、台湾や香港からの旅行者の利用率は6割を超えている。
 
 コンビニでしか買えない化粧品等、特に目当ての商品があって来店する客も多いようだが、飲料・酒類、菓子類等、ちょっとした物でも免税対応はインセンティブになる。そう言えばいつだったか、日本のお菓子は美味しくて人気があるというニュースを見たことがある。図表2は特定の品目を購入した訪日外国人の割合であるが、63.6%の人が菓子類を購入している。その他食料品、飲料、酒、たばこ、化粧品、香水、トイレタリー等、コンビニで買えるものが上位に多い。
 
 また、コンビニ店内のATMで海外のキャッシュカードやクレジットカードを使って日本円が引き出せるところもある。訪日旅行者としては、多額の現金を持ち歩かなくてもよく、紛失・盗難リスクを軽減させることができる。コンビニは進化している。
 インバウンド対応の手始めとして、消費税の免税対応は比較的ハードルが低いと思う。一定の要件を満たして所轄税務署の許可を受ければよい(※)。街中を歩いているとドラッグストア等にも「免税」の表示があることに気付くが、まだ浸透していると言える状況ではない。他店と競合する商品を扱っているところであれば、免税化は差別化として当面有効であろう。
(※) 観光庁の関連HP: http://www.mlit.go.jp/kankocho/tax-free/index.html

2. 民泊についての所見
 二つ目は民泊である。民泊とは一般的に旅行者が民家に宿泊することであるが、最近は旅館やホテルではない一般の居宅に料金を取って旅行者等を宿泊させることを指す。その殆どが旅館業法上の許可を取っておらず、従来それらは違法とされていたが、現在は東京都等の国家戦略特別区域に指定された地域内において、都道府県知事の許可を取れば民泊が認められるようになった。ところが実際に提供されている民泊の多くは無許可と見られる。
 米国サンフランシスコのAirbnb,inc.社が運営するAirbnbは、宿泊場所の提供者(ホストと呼ばれる)と宿泊希望者をマッチングするインターネットサイトだ。全世界に利用者がおり、日本でも多くのホストが登録しているようだが、そのほとんどが無許可と見られる。
 利用者は一見の旅行者で、ホストも素人であれば、トラブルはつきものだ。よく耳にするのは騒音トラブルである。外国人旅行者は日本人ほど近隣住民に気を使うことは少ない。また、非日常を楽しむ旅行であれば我々日本人でもはしゃいだりする。泊まる方は一晩のことかもしれないが、周りにとっては毎晩のことであり、堪ったものではない。またゴミが散らかる、全く知らない外国人が出入りしている等、衛生面、治安面での苦情も多く、実際に犯罪に利用された例もあるようだ。一般住民の居住空間の中で外国人旅行者に民泊させるというのは無理があるのかもしれない。
 政府が2020年の目標として掲げた年間訪日旅行者数2,000万人は今年達成される勢いで、更に目標を3,000万人に引き上げる動きもある。国内のホテル・旅館の稼働率は上昇傾向にあり、出張時にホテルが取れないということもよくある。観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、宿泊施設の平成27年年間稼働率は全体で71.5%、地域別では東京が85.1%、大阪が87.4%であった。民泊市場は今後確実に拡大していく。それに連れてトラブルも増えていくだろう。今後行政がどう対応していくのか注目されるところだ。利はありえない。したがって、互いの状況を把握した上で適切な妥協をすることにより、全体的な利益を最大化することが望まれる。

以上

(2016年3月)




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