スマートシティ先進各国の取り組み
国際部  宮下

 欧米・中国を中心にICTを活用したスマートシティへの取り組み‐AI 及びビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計の動き‐が国際的に急速に進展している。日本においても、第四次産業革命を先行的に体現し、革新的な暮らしやすさを実現する最先端都市となる「スーパーシティ」の構想を実現するため、内閣府特命担当大臣(地方創生)の下、「スーパーシティ」構想の実現に向けた議論が進められている。
 どのようなものを目指すかについては、座長である竹中平蔵氏中心に以下の5原則をベースに進んでいる。

① 何を目指すか
 ・世界最先端の技術を実証するだけでなく、第4次産業革命後の未来の社会、生活を包括的に先行実現するショーケース
② 基本構成要素
 ・未来像:少なくとも、自動走行、キャッシュレス、行政ワンスオンリー。その他、医療、介護、教育、エネルギー等を含め、未来像の包括的な提示・住民の参画:未来像の実現に合意し参画する住民
 ・強い首長:住民の合意形成を実現できる、ビジョンとリーダーシップを備えた首長
 ・技術を実装できる企業:世界最先端の技術を実装できる、中核となる企業
③ エリアの選定
 ・都市の一部区域を含め、ごく少数のエリアを、透明なプロセスで選定
④ 域内の運営
 ・国・自治体・企業で構成するミニ独立政府が運営主体(従来の特区の区域会議のさらなる強化、住民参画の仕組みも組み込む)
 ・社会設計を担うアーキテクトを置き、権限を付与
⑤ 国の役割
 ・域内の規制設定の権限は原則としてミニ独立政府と住民に委ねる
 ・必要なインフラ整備は国主導で迅速に行う

 このような考えの元、日本でもいくつかの都市を特区として指定し、実現に向けた試行が進む予定であるが、具体的にどのようなものを実現するか、これらのモデルともなっている海外のスマートシティの代表的な取り組み事例を紹介したい。


1:トロント(カナダ
 カナダ政府は2017年予算でImpact Canada Initiativeという成長戦略を打ち出し、その中の1つにSmart City Challengeを掲げ、11年間で3億ドルの投資開発を行うと宣言した。都市やコミュニティの規模を問わず、イノベーションがあり、データ分析と、コネクテッドテクノロジーを用いて、人々の生活を豊かにすることなどを基本要素に挙げている。このほかにも、政府系のスマートシティファンドが立ち上がっていて、民間からの資金も入り、15億ドルが投資可能とのこと。
 また、米グーグルの親会社、米アルファベットは、サイドウォークラボ(Sidewalk Labs)という最新テクノロジーを用いてスマートシティの実現を目指す会社を創設。同社は2017年、カナダ政府、オンタリオ州政府、トロント市による、同市のウオーターフロント再開発計画事業「ウオーターフロント・トロント」のパートナーとなり、「サイドウォーク・トロント」という共同事業体を発足させた。このプロジェクト費としては、5000万ドルが投資された。※下記参考記事

  


2:杭州(中国)
 アリババと杭州市が協力し進められている杭州ETシティブレイン計画(天曜=テンヤオ)の進捗が発表された。市中に設置された1700台の監視カメラからのデータ解析を通じて信号変換調整、交通事故、交通渋滞、交通違反などを20秒で把握、しかも無人体制運用。実用化に向け着々と準備が進む。

 【249台もの監視カメラを配備し、瞬時に信号調整、交通渋滞、交通違反、交通事故を把握】

  

 従前から杭州の街には監視カメラが多く設置されていたが、2018年に入り監視カメラの性能が格段にアップグレードされたという。その結果、交通状況を把握しながらの信号ライトの調整を以前よりも効率的に実行できるようになったという。また、駐車違反、信号無視、左折禁止などの交通違反や、交通渋滞、交通事故の発生などを、発生からわずか20秒程度の時間で把握し、システム上にアラームを発信することができるという。しかも、昨年までのシステムではカメラの映像をモニタリングするスタッフを24時間体制で配備していたが、現在では画像データのディープライニングが進み人工知能による自動解析で無人化かつ年中無休での体制が構築できているという。
 2018年3月時点で杭州市中心部をメインに249台ものETブレインに接続されたカメラが設置され中心部を中心に市の43%をカバーしているという。2018年末までには合計で1700台の監視カメラが設置される予定だという。モニター対象は、自動車やオートバイだけでなく、中国で頻繁に見かける電気自転車や歩行者なども対象となっている。
 現在は、まだテスト段階であるため交通違反に対して反則金が発生することはない。しかし、このシステムが本当に稼働することになれば、駐車違反や信号無視などは一発で検挙することが可能となる。キョロキョロと警察官が付近にいないことを確認して、隙を見て路上駐車して一瞬だけ買い物をするなどという人間らしい行動は、もう許されない世界に突入するのかもしれない。
 このETブレイン計画は、杭州で導入された後は、国策に沿って中国都市のスマートシティプラットフォームとして他の都市にも拡充される予定である。すでに、蘇州、衢州、天津、マカオなど中国の7つの都市でも導入予定である。さらに、海外への展開もすでに決定しておりジャック・マーがデジタル経済担当として政府顧問を担当するマレーシアにおいて、首都クアラルンプールの交通渋滞解消の切り札として導入が決定している。

3:その他の事例
 上記も含め、代表的な取り組み事例は多数あり、グローバルでのこのような取り組みが拡大していくものと考えられる。引き続き今後も注目していく必要がある。

  




以上

(2019年1月)

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