中国のインターネット社会の方向性
~インターネット安全法を中心として~
国際部 中川 卓也


 中国の社会でインターネット化が猛烈な勢いで進化している。スマホを使ったキャッシュレス化は日本では想像できない状況で、路上の浮浪者への寄付や交通違反の罰金もその場でスマホのQRコードを使って処理されているらしい。
 しかし、その発展の方向は、我々民主主義社会の人間からはかなり異様な方向に進んでいるように見える。習近平が政権の座についてから、外に対しては、拡張主義を強引に推し進める一方、内に対しては中央集権体制の下言論統制を強めている。インターネットも政府の厳重な管理の下に置かれているが、個人情報についての考え方も西側社会とは大きく異なっている。昨年6月7日に施行されたインターネット安全法を題材とし、中国のネット管理の方向性を考えてみたいと思う。

 「インターネット安全法」は、全7章79条で構成されている。あくまで個人的印象ではあるが、本法は、サイバースペースにおける国家主権の確保と国家の安全保障に主眼が置かれているように思える。大きな問題点として次の3点が挙げられる。

(1)「インターネット製品及びサービスは、関連する国家標準が規定する要求に合致しなければならない」(22条)、「インターネットの重要設備やインターネットのセキュリティー専用製品は、国家標準が規定する要求に合致しなければならず、資格を有する機構の安全認証合格、或いは安全検査の要件に適合した後に、販売もしくは提供できる」(23条)と記載されており、外国のインターネット関連商品やサービスを提供する企業にとって、中国仕様を強制され、独自の優位性を発揮できず、中国企業との競争に不利になるばかりか、検査の際にソフト情報などが流出する懸念も出てくる。

(2)「重要情報インフラ設備の運営者は、中国国内での運営の中で収集、作成した個人情報や重要なデータは、中国国内に保存しなければならない。業務上の必要からどうしても国外に提供する必要がある場合は、国家インターネット情報部会と国務院の関連部門が制定した弁法により安全審査を受けなければならない」(37条)と記載されており、中国で得たマーケット情報を海外で使用できなくなり、外国企業にとって世界各地で得たグローバル情報との統合が制限され競争上不利になる可能性が出て来る。

(3)「重要情報インフラの運営者が、インターネット製品やサービスを購入する場合、国家の安全に影響を及ぼす可能性がある場合、国家インターネット情報 部会と国務院の関連部門が組織した安全審査を受けなければならない」と記載されている。その他38条には、重要情報インフラの運営者はインターネットサービス機構による最低年一回以上の検査を義務付けられている。“国家の安全に影響を及ぼす”との表記は曖昧で、他の外交・経済問題で中国と対立した時など、嫌がらせでサーバー等への強制検査を行う可能性も懸念される。また、年一回以上の検査の内容も現時点では不明である。

 その他、12条には、「国家の安全・栄誉・利益に危害を加えることに従事したり、国家政権の転覆を扇動したり、社会主義制度の顚覆を進めたり、国家の分裂を図ったり、国家統一を破壊したり、(中略)することにインターネットを利用してはならない」と記載されており、もしこの法律が日本で適用されれば、安倍首相のモリ・カケ問題批判など一切ネットでは流せないことになろう。また、14条には「個人または組織は、ネットワークの安全に危害を加える行為について、通信、電信、公安部門に報告する権利を有する」とあり、恰も密告を奨励しているようにも読める。
 このように、本法において、中国でのインターネット運営者には厳しい管理・義務が課されている。第六章59条以下には、各違反内容により5千元から100万元(1元=約17円)の罰金が記載されている。中国国内で、インターネット関連事業を行おうと考えている事業者は、本法を十分に検討し、細則の公布時期などに注意を払っておく必要があろう。

 このインターネット安全法の公布以降もネット規制はますます厳しくなって来ている。中国政府は、「グレートファイアーウォール」と呼ばれるネット監視システム「金盾工程」によりVPN(仮想プライベートネットワーク)に対する規制を強化しており、中国ではGoogle、Twitter、Facebookなどの禁止されたウェブサイトにアクセスすることはできない。中国政府は、これらのサイトに反政府的なコンテンツが含まれることを懸念しているからである。そのため人民は、中国版LINEである「微信(ウィーチャット)」などを利用しているが、そこでのやり取りは企業側(テンセント)が共産党の指示により自主規制している。統制の強化に伴い文章や写真をチェックする手間も増大していると見られている。ネット民は生き残ったVPNを見つけては使用してきたが、今年3月31日以降、政府は取り締まりを更に強化し、非認可のVPNを全て閉鎖する方針を打ち出した。これにより、これまで監視が比較的緩やかだった外国企業にも影響が出る恐れがあり、ネットが遮断される危険性が出ている。これを避けるには、中国大手キャリアが提供する専用回線を引けばよいが、コストの問題と通信傍受や情報の盗み取りの危険性があると言われている。

 もう一つの監視システムが、「天網工程」と呼ばれる監視システムで、監視カメラによる顔写真と身分証、電話番号など個人データベースがデータベース化されている。中国で稼働する監視カメラ1憶7600万台の内2000万台は天網に繋がっている(日経新聞2017/12/13)とのことである。警官がグーグルグラスのようなサングラスをかけるだけで、視界に入った人の中から犯罪者を特定できるシステムも実用化されたと言われている。

 中国へ進出しようと考えているインターネット関連企業のみならず、中国で企業活動を行う外国企業にとって、自社の情報をどうプロテクトするかを考えると共に、派遣社員のプライバシーも日々監視されている社会で生活していることを自覚する必要がありそうだ。

以上

(2018年7月)

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