私が見た日本と米国の事業承継

 日本の中小企業の喫緊の経営課題として、人材不足、販路拡大、事業承継の問題がある。その中でも事業承継問題は、せっかく築き上げてきた事業なのに、「子供達には好きなことをやらせたい」、或いは「同じ苦労はさせたくない」という理由で自分の代限りで廃業すると言う経営者が少なくない。勿論、日本には同族経営で事業を継続させている老舗企業が多くみられ、その数は世界一であるが、規模の小さいものづくりや小売・飲食業に廃業を考える経営者が多く見られ、もったいないと思う話である。これ等3つの経営課題は深く関係しており、販売不振で業績が悪くなり人材が流出する、注文が戻って来たのに人材が確保できず生産ができない、子供が嫌がったり人材が育たず事業承継が出来ない、など悪循環になっている。やはり魅力的な会社であることを維持しないと人が集まらず育たないと言うことになる。

 そんな時に私がいつも思い出すのは、商社勤務の米国駐在員時代(1984年から1991年)の取引先であった現地の10~50人規模の中小製造業者である。同族経営が多かったが、経営理念が明確であったこと、技術や商品に強みがありニッチリーダーであったこと、グローバルな展開をしていたこと、商品開発力があったこと、社員を大事にしてファミリーの様だったこと、等の印象が強く残っており何れも魅力的な会社だなと思っていた。

 また、商社を辞めて転職した会社ではドイツの中小企業との取引を担当したが、同様な印象をもった。それは、Mittelstand(ミッテルシュタンド)と呼ばれるもので、その特徴は、家族経営が一般的で、特定の分野で強い競争力を持っていること、グローバルにビジネスを行っていること、大企業の下請けではなく経営の独立性を持っていること、等いかにもドイツらしいと感じたが、私が経験した米国の中小企業と共通していることを改めて思った。翻って、我が国の中小企業について考えると、その多くは米国、ドイツと比べて顕著な違いとして、商品開発力(イノベーション)とグローバルな事業展開に大きな差があり、それが魅力的な会社かどうかの要素ではないかと個人的には思っている。

 事業承継の方法には、子供(同族)への承継、社員への承継、M&Aの3つのタイプに分けることが出来るが、日本では同族或いは社員が承継する場合が多く、M&Aはまだ少ない。最近は、小規模事業者持続化補助金や事業承継補助金などがあり、国は経営力の強化と事業継続の支援に力を入れて、全国47都道府県に事業引継ぎ支援センターを開設しているが、いずれにしても魅力的な会社作りを訴えている。その為には、経営者自らが明確な目標やビジョンを持って、工夫して独自性を出していかなければ実現は難しいだろう。

 魅力的な会社であれば事業承継はスムーズにいくと考えるのだが、30年前に訪問した米国の魅力的な中小企業はその後どうなっているのか、ちょっと気になって調べてみた。何れも食肉加工機械メーカーであるが、私が日本のハム・ソーセージメーカーに輸出担当して関係のあった7社の中でインターネットで検索することが出来たのは4社だけであった。そのうち、当時と同じ社名で同じ場所で営業しているのは1社のみで、あと3社はM&Aで規模の大きい会社の傘下になっていた。同じ社名で同じ場所で営業している会社(BETTCHER Industries, Inc. Birmingham, OH)と、M&Aで他社の傘下になっている会社(Sam Stein Associates, Inc.、現在はJBT、Chicago, ILの一部門)をご紹介しよう。興味のある方は、URLで事業内容をご覧いただき、日本の中小企業と比較してみては如何でしょうか。英語の勉強にもなるでしょう。

■ BETTCHER Industries, Inc. (Birmingham, OH) https://www.bettcher.com/
1944年創業の食肉加工器具メーカーで、経営理念は、食肉加工作業の安全性。世界70か国にネットワークがある。いまだにこの分野でニッチリーダーの地位を保持している。

   
   

■  Sam Stein Associates, Inc. (当時はSandusky, OH)
http://www.jbtc.com/foodtech/products-and-solutions/brands/stein
1953年創業の食肉加工機械メーカーで、連続式フライヤーやオーブンを製造している。後に冷凍装置メーカーのFRIGOSCANDIAに買収され、今ではJBT(John Bean Technologies Corporation、Chicago, IL)の一部門になっている。Steinの連続式フライヤーは大手ファストフード店のチキンナゲットに使われており、その強みが優位な条件でM&Aを成功させたものと容易に想像がつく。

   


両社ともに商品開発に積極的で常にニッチリーダーの地位を維持しており、日本の製造業者には参考になるビジネスモデルと言えるのではないだろうか。
昔のことを思いながら中小企業の事業承継について日米の比較をしてみた。

以上

(2018年5月)

戻る