外国人の雇用問題について

国際部  中川 卓也


 日本の総人口は減少傾向(2016年10月現在1億2693万人 ⇒ 2050年推定1億0192万人 ▲19.7%)にあることはご承知の通りですが、生産年齢人口の減少は更に著しく2050年には2016年比31.1%減となると見られています(「内閣府2017年版高齢社会白書」に基づく)。消費する側よりも生産・供給する側の比率が速く減少する訳ですから、生産効率を上げる一方、働き手を増やすことが喫緊の課題となっています。
 このような環境の中で、今後外国人労働者の必要性は益々高まってくると予想されます。本稿において、企業が外国人を採用する際のポイントについて概略を述べたいと思います。

1.出入国管理及び難民規定法上、就労が可能な形態は以下の5つに分類されます。
①就労目的で在留が認められる者
・いわゆる「専門的・技術的分野」に該当する在留資格
・教授(大学教授など)、高度専門職(ポイント制による高度人材)、経営・管理(企業等の経営者・管理者)、法律・会計業務(弁護士、公認会計士等)、医療(医師、歯科医師、看護師)、研究(政府関係機関や私企業等の研究者)、教育(中学・高校等の語学教師等)、技術・人文知識・国際業務(機械工学等の技術者、通訳、デザイナー、私企業の語学教師、マーケティング業務従事者等)、企業内転勤(外国の事業所からの転勤者)、技能(調理師、スポーツ指導者、航空機操縦者、貴金属等の加工職人等)
②身分に基づき在留する者
・「定住者」(主に日系人)。「永住者」、「日本人の配偶者等」等
③技能実習
・技能移転を通じた開発途上国への国際協力が目的
④特定活動
・EPA(経済連携協定)に基づく外国人看護師・介護福祉士候補者、ワーキングホリデー等
⑤資格外活動
・留学生のアルバイト等。本来の在留資格の活動を阻害しない範囲内(1週28時間以内等)で、相当と認められる場合に報酬を受ける活動が許可

2.日本で就労する外国人労働者の状況(出典;厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況(平成28年10月末現在))
① 国籍別に見た外国人労働者の推移
・1位は中国人だが最近は年間1~2万人前後の微増状況
・代りに、ベトナム人、ネパール人が、各々対平成24年比6.4倍、5.8倍と急増。これは、本国における深刻な就職難が影響していると言われています。
・平成24年には中国に続く就労者がいたブラジル人は一時減少傾向にあり最近も伸び悩んでいます。

② 在留資格・国籍別に見た外国人労働者
・ⅰ)専門的・技術的分野、ⅱ)身分に基づく在留資格、ⅲ)技能実習、ⅳ)資格外活動の分類を見ると、中国人は各分野において大きな偏りはありませんが、ベトナム人は技能実習(42.3%)、資格外活動(44.3%)の比率が高く、ネパール人に至っては資格外活動の割合が在留資格の8割を占めており、大きな偏りが見られます。一方、フィリピン人、ブラジル人は身分に基づく在留資格の割合が大部分を占めている状況です。このことは、ネパール人やベトナム人は留学生、或いは技能実習生の資格で来日し就労している人が多いことが見て取れます。

 外国人労働者数                                                               (単位;人)

出典;厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況(平成27年10月末現在)」



3.外国人労働者の受け入れメリット
 それでは、外国人労働者を雇用することにより、企業にとって何が期待できるのでしょうか。
① 若い労働力の確保
少子化の進む日本では、業種によっては人材が不足している場合がありますが、外国人労働者の雇用により、若い労働力を確保することができるのがメリットです。
また、職種や雇用形態によって日本人を雇用するより人件費を削減することができるケースがありますが、過度に人件費の削減に重点が置かれ不当な賃金の引き下げを行うことは、法律で禁止されているので厳に慎まなくてはなりません。
② 異文化との交流による活性化
文化的に背景の違う人たちと一緒に仕事をすることで、コミュニケーションへの気遣いが進み従前の仕事の見直しが進んだり、外国人ならではの新しい視点でのアイデアの提案が期待でき、企業活動の活性化につながる可能性が生まれます。
また、海外から来る労働者の中には、日本人の仕事振りに関心を持ち、日本の技術を吸収したいなどの強い勤労意欲を持って就労している人、或いは将来の起業を目標に頑張っている人が多くいます。そういった労働者を迎えることで、企業文化に刺激が与えられる可能性も期待できます。
③ 海外への事業展開
海外展開を考慮している企業にとっては、通訳、その国の文化や習慣などの情報の提供など、事前調査や事業展開のコンセプトを決める際の貴重な情報源になります。また、外資系企業との取引拡大、海外進出後の現地法人とのコミュニケーションの円滑化に繋がるほか、将来のスタッフや統括者ともなり得ます。

4.外国人労働者の受け入れデメリット
①手続きなどの手間がかかる
外国人労働者を受け入れるには、日本人労働者と異なる配慮や手続が必要です。社内体制もある程の見直し・整備が必要になることもあります。また、留学生のアルバイトや就労できるビザを既に持っている外国人でも滞在し続けるために様々な手続きが必要です。
 ②外国人労働者とのコミュニケーション
言語の壁や文化・宗教・習慣の違いに基づく摩擦の発生への気遣いが必要です。賃金、待遇、休暇、仕事の分担などへの考え方は日本人と異なることが多く、衝突しやすくなります。
③必ずしも人件費の削減には繋がらない
アジアの外国人を雇用すれば人件費が安くなると思われがちですが、昨今の厳しい労働者不足の環境下必ずしも人件費の削減には繋がりません。優秀な外国人労働者はより待遇の良い職場を目指すであろうし、技能実習生や留学生を法外に低い賃金で雇える時代ではなくなっています。技能実習生の集団失踪や人権侵害行為が相次いだため「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が平成29年11月1日より施行され、これにより技能実習計画の認定及び監理団体の許可制度が設けられ罰則規定も設けられました。また実習生に対する相談や情報提供、実習実施者・監理団体への検査も実施されるようになりました。
 
5.外国人労働者が仕事上での不満
 豊島区では平成28年3月に外国人区民意識調査を行っており、外国人労働者を受け入れる企業にとって参考になるので同調査報告書から外国人労働者が感じている不満を見てみることとします。同調査によると46.2%が「特に困っていることや不満はない」との回答でしたが、それ以外の主な不満は以下のとおりです。
① 賃金が安い              16.3%
② 労働時間が長い・休暇が取れない    12.4%
③ 賃金や昇進が日本人と差がある      9.0%
④ 募集や採用が少ない           8.1%
⑤ 正社員になれない            7.2%
⑥ 仕事について相談できる人がいない    6.6%
⑦ 人間関係がうまくいかない        6.5%
⑧ いつ解雇されるかわからず不安      5.7%
⑨ なかなか採用されない          5.6%
⑩ 社会保険・労働保険に未加入       4.7%

 「賃金が安い」、「労働時間が長い・休暇が取れない」は、年齢では20歳から39歳の若手・中堅層で多く、在留資格別では就労等(技能実習を含むと思われる)で高くなっており、労働の質に対する対価が低いとの認識が持たれているようです。労働時間や休暇への不満は、アジア出身者より欧米ほかの出身者が高くなっていることから、文化・習慣の違いが表れており雇用に際しての配慮が必要と思われます。
賃金や昇進が日本人と差がある、或いは正社員になれない、いつ解雇されるか不安などの不満は、キャリア・プランへの配慮やコミュニケーションが不足しているケースがあることを示しています。
 「社会保険・労働保険に未加入」との不満は、企業の形態・規模によって、或いは外国人労働者の希望の有無によって事情が変わってきます。健康保険については、強制適用事業所(注1)と任意適用事業所(注2)では加入の要否が異なります。また厚生年金についても、健康保険と同様「加入させなくてもよい労働者」があります。外国人労働者の場合、当該労働者の出身国が、日本と厚生年金の「社会保障協定」を結んでいるかによって取り扱いが変わってきます。詳細は本稿では割愛します。
(注1) 全国健康保険協会が運営する健康保険については、基本的に法人事業所であれば、業種・人数に関係なく加入しなければならない。個人営業で常時5人以上の従業員を使用し法定16業種に該当する事業所は必ず加入しなければならない
(注2) (注1)の事業であって常時5人未満の従業員を使用する個人営業の事務所、及び第一次産業、接客業、法務業、宗教業は、従業員数に関係なく絶対に加入しなければならない事業所ではない。

6.外国人労働者を雇用する際の留意点
 以上のような状況を踏まえ、外国人を雇用する際どのようなことに留意すればよいか、まとめてみたいと思います。
① 募集の方法
・インターネットを活用し、就職情報サイトや自社のホームページに募集要項を掲載する
・合同説明会、外国人向け就職フェア、個社での説明会の実施
・大学との連携、インターンシップの活用
・ハローワーク、外国人雇用サービスセンターなどの公的機関に相談
・民間の人材紹介会社の利用
・海外の自社現地法人、海外の大学などを通じて現地で採用
② 採用に際して
・自社の経営理念、入社後の仕事内容、求めている人物像、待遇・福利厚生など明確に伝える
・経歴・能力などの真偽については日本人採用時以上に十分確認する
・本人のキャリア・プランについて十分に把握する
・入社後の職種に必要とする日本語の能力水準を設定しておく
③ 配属・評価
・日本人よりも自分の能力・専門性を活かしたいとの欲求は強いことを理解する
・今後のキャリアパスについて十分に説明する
・日本人に対するような阿吽の呼吸や忖度は通用しないため、評価・改善点など明確に伝えるとともに評価の根拠・基準を示す
・技術習得後のジョブ・ショッピングのリスクを考慮した配属・評価を行う
・グルーバル化に適合するよう、必要に応じて人事・評価制度を見直すことも必要
④ 職場環境の整備・運営
・日本人の従業員が差別意識を持たないように教育
・外国人労働者が疎外感を持たないような配慮が必要
・プライバシーや出身国家の文化・宗教・習慣への配慮も必須
・仕事の進め方(特に会議や仕事の依頼に際しての目的や期限、裁量範囲など)への明確な指示
・休暇・残業に対する考え方の違いを理解する

 以上のような対応策は、高度外国人材の雇用に関する留意点ですが、このような改善を切っ掛けに自社の起業文化や旧来の体制の抜本的な見直しを行うことにも繋がっていくと考えられます。
 また、外国人留学生を活用した短期の外国人の雇用対策とは異なりますので、ご留意ください。
 技能実習や留学生の雇用問題につては、別の機会に述べたいと思います。


以上

(2017年8月)



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