Amazonのデジタル活用による米国小売業界の変革

国際部 宮下


 既にご存知の方も多い米Amazon社、オンライン書籍販売ビジネスから始まり、日用品や衣類、電化製品など、現在2億5千万以上に上る商品を提供し、eコーマスの王者としての地位を不動のものにしている。加えて電子書籍端末、家庭用AIアシスタント(Amazon Echo)といったハードウェア開発・製造や、クラウドサービスのトップシェアであるAWSのサービスの展開も行い、小売業の枠を超えたテクノロジー企業としても認知され、米国の小売業界にデジタルイノベーションを起こし、発展を続けている。同社のデジタルテクノロジーの活用について、WebからIoT・リアル世界に至る広がりを改めて眺めていく。

1:Web上での成長
 eコーマスサイトでのユーザーレコメンド機能は広く利用され、商品の購入時の判断材料の大きな要素となっている。日本のグルメサイトでも恣意的な評価が問題となった例もあるが、顧客に誤った判断を促す例もあり顧客満足を損なう場合もある。2015年6月、Amazon社は商品カスタマーレビュー機能に自社開発の機械学習プラットフォームを導入し、ユーザーの信頼性強化を図っている。また、ビッグデータ分析を活用して各ユーザーにカスタマイズしたレコメンドエンジンも採用し、より顧客が興味を持ちそうな商品をサイトへ表示している。現在同社の総売上の35%は、顧客が推奨商品リストから実際に商品を購入して得られた利益が占めるとのことである。この仕組みには自社開発のディープラーニングソフトが使われている。web上では顧客の購買履歴や、何のキーワードで検索したか、どの商品のページを見たか、どの時点で購買を取り止めたのか全て記録・追跡することも可能である。AIでのビッグデータの分析も含め、これらの情報を元に顧客にとっての最適な購買をアシスト・促進することに成功している。

2:IoT、リアル世界への展開
 ボタンを押すだけで簡単に商品注文も行える画期的なサービスであるAmazonダッシュボタン。500円ほどの価格だが、初回時に500円相当の割引が含まれており、実質無料で手に入る。メーカーからすると、一度固定顧客になったら他商品へのスイッチが防げるため、200種類以上の商品ブランドラベルが登場している。2016年12月5日から日本でも提供開始されている。ちなみに、とある情報によると分解して中の部品を見ると5,000円程度はコストがかかるとも見られているが、無駄な広告費を削減するなどしてチャネル転換を図ろうとの意図が見える。

            

             
      出所:http://gigazine.net/news/20161219-amazon-dash-button-teardown/

 加えて、話しかけるとすぐに応答し、まるで人間と会話していると錯覚するほど流ちょうな言葉で返答してくれるスピーカータイプの音声アシスタント端末「Amazon Echo」は、英語圏では大ヒット商品になっている。その中身である音声認識機能「Alexa」によってこれからもたらされており、Alexaを武器に「スマートフォンの次」のプラットフォームをAmazonが手中に収めつつある。昨年の米・家電見本市CESでは、700ものAmazon Alexa対応機器が発表され、ほとんど「家電と話ができるようになった」状態であり、家電からモノやサービスを注文するIoTコマースの時代へ本格的に突入している状況である。日本ではAlexaの日本語対応がまだ行われていないことから、英語圏の国と比べて対応が遅れている現状を見ると、携帯と同様のガラパゴス化が心配されるところである。

 そして、米国では実店舗への展開も開始している。レジ無し精算を実現するコンビニエンスストア「AmazonGo」。これは様々なテクノロジーを組み合わせ、消費者がレジ精算を行わずに商品を購入することを可能としている。
 ① 入店時に入り口のゲートでスマホのアプリ上のバーコードをスキャンする
 ② 棚から欲しい商品を取ると、アプリ内のショッピングカートに自動的に商品が追加され、商品を棚に戻せば、ショッピングカートから当該商品も自動削除
 ③ 買い物が終了したら、入店時に通過したゲートを通って店を出る
 ④ アプリにレシートが送信され、Amazon社のアカウントから自動決済が行われる
 同システムの実現には、入店時のバーコードスキャンで行われる顧客の特定や、顧客が手に取った商品パッケージを特定するための多数のカメラが用いられており、画像認識機能を搭載したこれらのカメラは、顧客の肌の色を識別し、その手の動きを追跡する。また、店内にはマイクも多数設定されており、音声認識技術により、顧客のいる店内の位置を音からも特定するほか、商品棚には複数の赤外線、圧力、重量センサーが設置されており、商品や人の動きを詳細に追跡する仕組みと想定されている。

 AmazonGoの技術とサービスは、消費者との関係の深化と一層の一体化を進めている。その目標はデータ捕捉を増やし、消費者の需要と意図の理解を向上させることで、最終的に購買額の拡大と購買頻度の増加につながる。webから各家庭のIoT製品、実店舗とAmazonはそのチャネルを拡大し、これらの全てのデータを利用できるため、長期的により顧客の消費支出に占めるシェアを拡大していくと見られる。
eコーマスの発展により既存の流通・小売業界は淘汰が進んでおり、米国において大手の店舗数数は低下の一途である。デジタル技術を中心においたAmazonのようなディスラプターが、webでもリアルの世界でも益々その存在を大きくしている。

以上

(2017年4月)

戻る