ベトナムの交通事情

国際部 山本 倫寛


 既に昨年のことだが、ベトナムのホーチミン市に約1ヶ月滞在した。とは言え、この間ホーチミン市・タンソンニャット空港と羽田空港を3往復した。しかも、いずれもナイトフライトで各空港から直行で事務所や業務場所に出向くというハードさであった。
 ベトナムは人口約9,340万人、面積32万9,241平方キロメートルのひょろ長く延びた地形に特徴がある。また16世紀には中部の都市「ホイアン」の日本人町が栄えるなど、我が国との関係も深い。
 さて、ベトナムと言えば皆さんは何を思い浮かべるだろうか。麺類の「フォー」、魅惑的な「アオザイ」、悲惨な「ベトナム戦争」、「ミスサイゴン」など色々あろうが、私は真っ先に「ひしめき合うオートバイの洪水」が頭の中を目くるめく。
 各国のオートバイの保有台数としては、中国が102,170,901台ダントツの第1位だが、ベトナムは39,000,000台で第2位につけている。かたや保有率でみると台湾が1,000人あたり654台と突出しているが、ベトナムは438台とこれも第2位となっている。一方で自動車の保有率は、台湾の1,000人あたり297台に対しベトナムは14台と極端な差が生じている。1人あたりGDPが台湾の約21,000ドルに対し、ベトナムは約1,900ドルで、オートバイ・自動車の保有率と経済発展には関連性が窺える。
           


 ベトナムにおけるオートバイ市場は、外資系メーカーであるホンダ、ヤマハ、SYM(台湾「三陽工業」)、イタリアPiaggioの4社でほぼ占められている。その中でもホンダのシェアは2012年において63%と第2位のヤマハの26%を大きく引き離しており、オートバイの代名詞にもなっている。
 現地での乗り物としてはタクシー、バス、セオム(バイクタクシー)、シクロ(自転車の前に座席をつけた人力車)、南北統一鉄道(南部のホーチミンから中部のホイアン、ダナン、フエを経由して北部のホーチミンを結んでいる)、国内線飛行機、船などがある。しかし一般市民の足は圧倒的にオートバイで、1台のオートバイに家族4-5人乗りというのも珍しくない。私は滞在中ほぼタクシーを利用しての移動であった。セオムやシクロにトライしたい気持ちもあったが、現地の超過密交通状況を勘案すると怖くて乗ることができなかった。タクシー代は日本に比べると驚くほど安く、乗車時間20-25分くらいの距離であれば5万ドン(約250円)ていどであった。
 他の移動手段は自分自身の足であったが、横断歩道・信号があまりなく、行きかうオートバイの洪水の中を横断するには、とにかく勇気が必要で苦労した。最初はどうにも一歩を踏み出すことができず、躊躇したまま道に佇んでいたら、若いベトナム男性が日本語で「一緒に渡ってあげましょう」と声を掛けてきた。心の中で「怪しげな輩だな」とは思ったが、背に腹を変えることができず、彼について何とか渡り切った。その時は航空券を買うため旅行会社のオフィスに行くところだったが、どこにあるのか見つけられず困っていた。そのことを彼に告げると親切にも「それでは案内してあげましょう」との回答。「ムム、大丈夫かな」とは思ったが、歩きがてら会話をしていたら、ベトナム航空のキャビンアテンダントで日本語を勉強しているとのことだった。実は本当に良い人だったのだ(心の中でそっとお詫び)。他にも同じようなことがあり、ベトナムの人は親切で優しいのだと強く認識。このように当初は横断に苦労したが、徐々に慣れていった。そして見つけた横断の極意は、「走りくるバッタの集団のごときオートバイの運転手を睨みつけながら、一定のペースで洪水の中を十戒のモーゼのごとく、堂々と歩くこと」であった。
歩道上でも気を付けて!!
さて、あなたは渡れますか?
           

以上

(2016年7月)

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