ドイツを参考とした日本の中小企業のグローバル展開のありかた

国際部  米山伸郎 

はじめに
私はリーマンショック直後の2008年から2012年末まで米国の首都ワシントンDCに総合商社の駐在として“グローバル化とビジネスへの影響”を米国の視点から情報収集分析する機会を得ました。私なりに感じた米国自身の“成長戦略”は規制緩和や税制優遇など米国の対外的魅力を増し、“グローバル化”というヒトモノカネ情報技術のクロスボーダーの流れを積極的に取り込み、国内を活性化するというものでした。そして強化された国内のビジネスモデルをTPPやEUとのFTAといった自由貿易圏での輸出増につなげ、その魅力を海外展開することでヒトモノカネの流れをさらに米国に還流させるという自国の磁石(魅力)強化策でした。そしてその米国が“グローバル化環境における成功モデル(特に製造業と中小企業政策において)”として一目置いているのがドイツであると強く感じたことからそのドイツの手法について知っている範囲で共有させて頂き、日本の中小企業向けの参考にしてみようと思います。

1.日本のライバル・ドイツのグローバル展開
①米国での評価をテコに世界でのブランドイメージを増すドイツ
ワシントンの政治家、メディア、シンクタンクそれぞれのコミュニティでドイツ人気は高い。世界の成長を取り込む中堅・中小企業の海外展開の積極性、それを支える国の職業訓練や研究開発の質の高さ、フランスを前面に立てつつEU/ユーロ圏の実質的求心力としてしたたかに振る舞える政治力、といったところが玄人受けするのであろう。ただ、情報発信は極めてしたたかであり、アメリカが世界最大のサウンドボードであることを理解し、ドイツの良さ、強みをアメリカ経由、世界にわかりやすく情報発信しているということである。
今後、日本企業が品質や意匠、技術面を差別化としてアジアを中心に海外展開を進める際の最大のライバルがドイツ企業であろう。実際、英国のBBC世界好感度調査では日本がトップになった2012年以外は今年(2014年)を含め殆どドイツがトップを占めている。

②輸出主導の中堅企業、付加価値重視で価格競争を避ける
ドイツのGDPにおける輸出比率は2010年頃で約50%と、日本の約15%の3倍以上。特に、新興国とアジア途上国で圧倒的に伸びている。そしてその輸出を支えるのは専ら中堅・中小企業であるという。その秘密は、世界中の顧客に寄り添い、そのニーズに積極的に応えていく姿勢にある。中堅・中小企業なので日米の大手のようなハイテク型の高い研究開発投資は行わず、資本財を中心にミッドテクに集中し、顧客ニーズの変化に敏捷に対応する。日本企業が製品のイノベーションを重視するのに対し、ドイツ企業は顧客ニーズに応えるイノベーションを重視。また、日本企業の競争戦略において費用対効果重視が多いのに対し、ドイツは付加価値差別型。そして市場の捉え方は、日本企業がピラミッド中間のボリュームゾーンをターゲットにするのに対し、ドイツはその頂点と底辺も狙う。頂点では車のポルシェはもとより、一個一千万円以上する腕時計や数百万円するワインを山奥の中堅・中小企業が生産しており彼らの言い値で売れる。一方、底辺は世界最安値車のインドのナノ・タタにドイツ製部品が最も多く採用されている。単品売りでは利益が上がらないものを、モジュール化することで収益性を変えず最大規模を獲得している。

③外国人材の育成・活用と国際展示会で海外展開の差別化を図る
そのドイツの海外展開の競争力を支えているものの1つに海外の優秀人材の組み入れがある。ドイツの外国人就労者比率は約9%と日本のほぼ9倍、海外留学生数でも人口比で日本の約2.6倍である。ドイツ政府は政策として移民の流入と社会への組み入れを支援する。例えば移民が母国で取得した資格を可能な限りドイツ国内でも認め、得意分野での能力発揮を促している。
また、ドイツの中堅・中小企業の海外展開の強い味方としてメッセがある。教会の礼拝(ミサ)のドイツ語読みであるが、中世ドイツでミサに集まる大勢の人間がビジネス情報交換を行ったことが起源という。メッセの元祖として国際展示会が地元で多く開催されるだけでなく、メッセデュッセルドルフ社のような展示会の最高のノウハウ保持者が身近にある。同社は世界で最も規模と効果(成約高、パートナーとの出会い等)の大きい25の国際展示会の殆どを主催している。

2.中小企業のグローバル化と診断士の役割
私自身、過去1年以上にわたり10社程度の中小企業の海外展開を側面的に支援する機会を得たが、上記のドイツの良い例と比較するかたちで課題を挙げてみたい。

①情報発信
ホームページの英文化、中文化を進めている企業もあったが、日本語サイトの直訳に終始するものが多い。 日本とは文化、習慣、感性と意思決定メカニズムの異なる海外の顧客に訴求するメッセージとウェブ上から引き合いに呼び込む魅力的な仕組みが求められる。

②価格競争を避ける
日本の製品のコンセプトに似せた中国製品や韓国製品がアジアなどに出回っているケースは多い。それらの製品との価格競争に巻き込まれるケースもまた多い。日本の製品の“付加価値”の高さを、如何に説得力を持って顧客に訴求するかが大切になる。ドイツでは既に“ドイツブランド”だけで押せる部分もあるようだが、日本の中小企業の場合、知名度の低さからして上述の説得力が求められる。そこで提案したいのが物語・ウンチクづくりである。開発の苦労話、感動的な発見・気づき、製品やサービスのどういったところに社員の「気持ち」や「思い」を注ぎ込んでいるのかといった嘘偽りのない現場での付加価値化を「見える化」するもの。

③外国人材と国際展示会の活用
昨年筆者が見学した東京での中小企業合同就職説明会の求職者向け資料を見て驚いたが、求人企業約50社中、8割以上が求人対象の欄で「留学生」の選択肢をX(対象外)としていた。2回参加したが、2回とも8割以上であった。過去に採用経験があって、留学生はすぐに辞めてしまったなどの悪い印象があったのかもしれない。ただ、ドイツの例に見るまでもなく、海外の異なる文化・習慣を理解する感性を持ち、海外で自社の製品・サービスのコンセプトやその「物語・ウンチク」を語り、説得力を持つためにも外国人材の採用と育成が中小・中堅企業においても喫緊の課題となってこよう。国内には14万人もの留学生がすでに学習目的で来日しており、その約4分の1が毎年卒業する中で国内企業への就職はわずか7~8千人(2011年)程度となっており、大手企業でなくとも十分採用できる母数はあると信じる。
国際展示会についてはジェトロや東京都中小企業振興公社など公的機関が中小企業の出展を支援してきておりそれらに参加することで“土地勘”をつかむことが肝要である。一方で、メッセデュッセルドルフ社の人気の高さからわかるとおり、国際展示会の“質”とは結局は良いパートナーに出会えたり、成約にいたったりする確率の高さであり、その意味では多少参加費がかさんでも、そういった場を提供してくれる国際展示会を真剣に探し、数年に一度、気合を入れて参加するということも必要ではないか?  もちろん毎年参加して世界の業界の息吹を感じるという目的もあろうが、メッセデュッセルドルフ社の日本支社長曰く、通常、新製品は3~5年のペースで出てくるので同社展示会もそのスパンでやることにしているとのことであった。
国際展示会で外国人社員に活躍させることも本人の士気向上と一石二鳥の効果がある。

④日本にユニークな中小企業診断士と総合商社
最後に、ドイツに無くて日本にのみ有る中小企業診断士と、総合商社の存在を挙げ、中小企業の海外展開においてドイツではできない差別化の方法を考えてみたい。 総合商社は、元々は国内の中小問屋・小売の系列化など流通革命に貢献し、現在もコンビニの資本家としてのみならず裏方としてその進化を支えている。  中小企業診断士協会が総合商社団体と日本の中小企業団体の共同勉強会などの仲介役を果たし、新興国に代表される成長市場で官とともに活躍するための国内と現地での関係づくり、ネットワーキングを提言したい。中小企業振興はどの国の政府にとっても重要課題であり、それを総合商社が核となり、JICAやジェトロの支援を得つつ、日本の中小企業の直接の参加や技術・ノウハウを提供する形で地元の中小企業産業集積や業界組合形成に貢献していくことがひとつのイメージである。総合商社はそういった貢献を通じ、地元社会インフラといった大規模商材受注の機会を得るとともに、地元でのプレゼンスや影響力、発言力増大といった相手国に刺さり込む戦略性にメリットがあるものと信じる。

以上



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