注目される中小製造業における「ソリューション営業」
城西支部 大村 貴志
この5月から新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが「5類感染症」に移行する等、収束の兆しが見え始めたことから、社会も少しずつ動き出しました。このようななか、大きな環境変化に直面した飲食業や小売業、サービス業だけではなく、製造業においても顧客の多様化するニーズに対応するため、自社製品における更なる高付加価値化が求められています。しかしながら、自社製品を単に高付加価値化しただけでは、顧客には響きません。そこで、「製造」と「営業」の両輪を回すことが重要になるのです。
近年、取引先である顧客と製造業の営業担当者が共に課題を解決するための「信頼のおけるパートナー」となり、長期的な関係性を構築していくことで課題解決を行う「ソリューション営業」が注目されています。これは、顧客と営業担当者との間において双方向での対話を行うことで、顧客の潜在的な課題やニーズを引き出し、解決策(ソリューション)を提案する営業手法のことを指します。
この「ソリューション営業」が注目されることになった背景としては、以下の3つの要因が挙げられています。
1つ目は、「顧客の情報収集力の向上」です。
インターネットの発展により、昔と比べて情報収集が容易になったことから、顧客と営業担当者の間において、製品等に関する情報収集やその内容について大きな差が無くなっているためです。
2つ目は、「製品の差別化が困難」なことです。
技術の進歩等から市場には多くの製品が既に投入されており、機能面において明確な差別化が可能である「オンリーワンの製品」は少なくなっているためです。
3つ目は、「急激な環境変化に伴う意思決定難易度の上昇」です。
近年では、新型コロナウイルス感染症や世界各地での戦争・紛争等、想定外と思われていた急激な環境変化が起こっており、過去の経験等に基づく意思決定が難しくなっているためです。
こうした背景から、長期的な関係性が構築でき、課題解決に協力してくれる「信頼のおけるパートナー」が必要とされるようになっているのです。
また、顧客は「何を買うか(商品)」ではなく、「誰から買うか(商人)」を重視するようになっており、製造業においても「商品の差別化」から「商人の差別化」が必要となったのです。
この「ソリューション営業」の進め方については、以下のようになります。
1.顧客の抱える課題に関する「仮説」の立案
顧客との間における普段の対話と傾聴を通し、想定される顧客側の課題を抽出・分析することで、その元となる「仮説」を立案します。
2.顧客との面談・ヒアリングによる「課題」とその「真因」の特定
顧客に対し、「信頼のおけるパートナー」として面談・ヒアリングを実施し、その分析から「課題」とその「真因」を特定します。
3.顧客への課題解決策に関する企画・提案の実施
特定した顧客の「課題」と「その真因」を踏まえ、自社製品を活用した課題解決策を企画し、顧客への提案を実施します。その際、顧客に対して「気づき」を与え、顧客自身が「腹落ち(納得)」する提案を行うことが重要であり、これにより顧客に対して解決策実施に向けた内発的な動機付けがなされることになるのです。
経営環境の変化が加速し、不確実性が高まっている昨今、顧客の置かれた環境や課題についての理解を深める必要があります。そして、顧客の「信頼のおけるパートナー」となり、長期的な関係性を構築していくことで課題解決を行う「ソリューション営業」を実践していくことが重要です。
以上